一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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シンポジウム1
口腔内の老化を基礎から知る

2023年6月17日(土) 08:45 〜 09:45 第2会場 (3階 G303)

座長:
金澤 学(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔デジタルプロセス学分野)
黒嶋 伸一郎(長崎大学 生命医科学域(歯学系) 口腔インプラント学分野)

企画:学術委員会

[SY1-2] 唾液の老化を知ろう

○向坊 太郎1、正木 千尋1、近藤 祐介1、宗政 翔1、野代 知孝1、細川 隆司1 (1. 九州歯科大学 口腔再建リハビリテーション学分野)

【略歴】
2007年4月 鹿児島大学 歯学部卒業
2012年3月 九州歯科大学大学院歯学研究科博士課程修了
2012年4月 九州歯科大学口腔再建リハビリテーション学分野助教
2015年9月 - 2018年3月 Dental and Craniofacial Research, 米国国立衛生研究所 Clinical Fellow
2019年4月 九州歯科大学口腔再建リハビリテーション学分野病院講師
【抄録(Abstract)】
口腔乾燥症患者は日本国内で800万人から3000万人いると推定されており,老化とは明確な関連性が報告されている.しかし,唾液分泌量が正常であっても口渇感を感じる患者が一定数存在する.これは口腔乾燥症(Xerostomia)と唾液腺機能低下症(Hyposalivation)の違いに起因しており,前者は患者の口渇感という主観的なアウトカムと,口腔粘膜や舌を中心とした口腔内診査結果を診断基準とし,後者は唾液分泌量という客観的指標を診断基準としている.近年の研究では,口腔乾燥症患者では唾液分泌量だけでなく,唾液中ムチンに変化があることが報告されている.これまで唾液の量だけでなく質の変化について詳細に調査された研究は少なかったため,この発見は重要である.しかし老化の研究においては,全身性の変化が起きることから唾液腺への直接的な影響を調査することが難しいとされてきた.我々はこの問題を克服するため,マウス唾液腺を体外に摘出し,動脈から灌流を行うマウス唾液腺Ex vivo灌流実験を老化モデルマウスに適用した.その結果,老化によって唾液ムチンそのものが減少するよりも,むしろムチン構造中にあるシアル酸に変化があることがわかってきた.シアル酸は糖タンパクに結合し,ムチンに負電荷を与えることで粘性を生じさせると考えられ,抗ウイルス作用や抗菌作用が報告されている.老化による唾液ムチン中のシアル酸低下が全身の健康にどのような影響を及ぼすかは現時点では不明であるが,今後の解析技術の発展により分子レベルで老化による唾液成分の変化が検出できるようになることが期待されている.本シンポジウムでは,老化による唾液分泌量の減少だけでなく,ムチンを含む唾液タンパクの変化による唾液の質変化に焦点を当て,現時点での唾液に関する基礎研究の到達点と今後の研究の展望について紹介する.