一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R1:鉱物記載・分析評価(宝石学会(日本) との共催セッション)

2023年9月14日(木) 13:30 〜 16:30 820 (杉本キャンパス)

座長:北脇 裕士(中央宝石研究所)、黒澤 正紀(筑波大学)、坂野 靖行(産総研)

14:30 〜 14:45

[R1-05] マダガスカル産天然サファイア中のナノインクルージョン

*三宅 亮1、乙 星華1、伊神 洋平1、埋橋 淳2、大久保 忠勝2、北脇 裕士3、江森 健太郎3 (1. 京都大学、2. 物質・材料研究機構、3. 中央宝石研究所)

キーワード:コランダム、スリランカイト、透過型電子顕微鏡、3Dアトムプローブ

【はじめに】サファイアという宝石名で一般的に広く知られているコランダム(Al2O3, Crn)には、しばしば針状のルチル(TiO2)がインクルージョンとして含まれる。しかし、マダガスカル産の天然サファイア中では、ルチルとは異なるナノインクルージョンが発見されている(Shen et al., 2012; 江森ほか, 2018)。Shen et al. (2012)は、イラカカ産非加熱サファイア中のBe, Ti, Nb, Taを微量に含む雲状に濁った箇所からナノインクルージョンを観察し、長さ20~40 nm、幅5~10 nm で、α-PbO2構造をもつTi-richな単一相(スリランカイト, Sri)であると報告した。江森ほか(2018)も、Be, Ti, Nb, Taを微量に含むディエゴ産天然サファイア中にTi, Nb, Taを含む長さ40 nm、幅10 nm程度のナノインクルージョンを発見し、組成がBe: Ti : Nb : Ta = 3 : 16 : 1 : 4の未知の鉱物である可能性があるとした。本研究では江森ほか(2018)で報告したナノインクルージョンについて、さらに詳細な観察をおこなったので、その結果について報告を行う。
【試料と手法】本研究では、江森ほか(2018)で使用した天然Beを含有するマダガスカル・ディエゴ産非加熱ブルーサファイア原石サンプルを用いた。このサンプルは、江森ほか(2018)の分析により、Beの濃度が検出限界未満~14.16 ppmwであり、LA-ICP-MSを用いて分析が行われている。その結果BeとNb、Taには非常によい相関関係が認められるが、Tiとは相関関係が認められなかった。この試料のうちBeが一番高濃度であった付近で、FEI(Thermo Fisher scientific)社Helios G3 CXを用いてFIB加工を行いコランダムの[001]方向からの試料を作製し、JEOL JEM-2100Fを用いてTEM観察を行った。さらに、FEI (Thermo Fisher scientific)社Helios G4 UXを用いてFIB加工を行い、アトムプローブ(AMETEK CAMECA社 LEAP-5000XS)を用いて、3Dアトムプローブ分析を行った。 【結果】TEMによるHAADF-STEM観察により、直径20~30 nmの円形のナノインクルージョンが観察された。STEM-EDSによるマッピング、分析を行った結果、ナノインクルージョンからはTi、Nb、Sn、Taが検出された。Beの有無はEDSでは測定できないので不明であったが、アトムプローブを用いた分析の結果、インクルージョン中にTi, Fe, Nb, Taが含まれていることがわかった。さらにBeはインクルージョンの周辺に濃集していることがわかった。
【考察】電子回折図形を指数付けした結果、スリランカイト(Sri: (Zr, Ti)O2)のTiO2端成分でのみ説明可能な図形で、他のTiO2相(ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、赤萩石等)では説明がつかなかった。また、4D-STEM (Diffraction Mapping)の結果、3つの方位を有したスリランカイトが三連双晶していることが分かった。  全てのナノインクルージョンのスリランカイトと母相であるコランダムの間には{010}Sri || {10-10}Crn、{100}Sri || {0001}Crn、{001}Sri || {1-210}Crnの方位関係が得られた。ナノインクルージョン相と母相がトポタキシャルな関係であり、ナノインクルージョンがコランダムから析出してできたことを示唆する。Xiao et al. (1997) の実験では1300℃ から10 時間かけて徐冷することで、サファイア中にスリランカイトの析出物を得たことから、サンプル中のナノインクルージョンは準安定相としてコランダム中に析出し、α-PbO2 構造を保ったまま冷却され地上に産出したと考えられる。また、Beは、その際に母相であるコランダムとスリランカイトの格子のわずかとはいえ存在するミスフィットからその界面に濃集していると考えられる。
Shen A. & Wirth R., (2012). Gems & Gemology, 48(2), 150-151 江森健太郎, 北脇裕士, 三宅亮 (2018) GCL通信, 45号, 1-8 Xiao S. Q., Dahmen U. and Heuer A. H. (1997)Philosophical Magazine A, 75 (1), 221-238