3:00 PM - 3:15 PM
[R1-07] Determination of local symmetry within the iridescent garnet from Tenkawa by spatially-resolved electron diffractometry
Keywords:iridescent garnet, local symmetry, electron microscopy, 4D-STEM
天然に産するグランダイト系列ガーネット(Ca3[Fe3+,Al3+]2Si3O12)の中には稀に遊色により表面が虹色に輝くもの(イリデッセントガーネットと呼ばれる)があり、国内では奈良県天川村からの産出報告がある[1]。天川村産ガーネット内部にはAlに富む領域とFeに富む領域とがなす数百nm周期の交互層(fine lamellae)組織が存在することが知られ、表面の遊色の原因となっている[1]。このガーネットは偏光顕微鏡クロスニコル下で干渉色を示すこと(光学的異方性)から、対称性が一般のガーネット(空間群Ia-3d)から低下していることが知られ、その構造決定を目指して研究が進められてきた。Nakamura et al. [2]は、単一成長セクターから試料を切り出しての単結晶X線回折実験で得られた平均構造と透過型電子顕微鏡(TEM)観察とを組み合わせることでAl-rich fine lamellae領域でのAl/Feの配列秩序を示し、また消滅側を破る反射の出現から空間群としてI-1を提示した。他の低対称ガーネットの研究でもI-1の報告は多い[e.g., 3]。しかし、特に天川村産ガーネットは上述のように明らかに結晶内部で不均質性を示しており、各領域の低対称構造を正確に決定するのはそれほど容易ではない。例えば単一成長セクター内で双晶が生じている可能性を考えると[4]、格子の変化がわずかな場合には回折学的データだけからの解釈は大変困難で、顕微的な側からも研究を進めることが重要となる。これらを踏まえて本研究では、TEM装置で行う4D-STEM法を用いたナノオーダー位置分解電子回折実験により、天川村産イリデッセントガーネットのfine lamellae組織周辺の局所空間群の評価を行った。4D-STEMはナノ電子プローブを試料上で二次元スキャンし、各グリッド点における回折信号を網羅取得する手法である[5]。本研究では準平行ビームを用いることで、~10 nmの空間分解能と消滅側を破る微弱な回折スポットの検出とを両立した。試料には、天川村産ガーネット単結晶(001)面薄片から、fine lamellae面の(1-10)に垂直な(110)面薄膜および(001) 面薄膜を集束イオンビーム装置により作成した。
4D-STEMによる位置分解電子回折実験の結果、Al-rich領域からIa-3dの消滅側を破る1-10反射の出現を捉えた。さらに極微弱な002反射が出現する領域も検出したが、Al-rich領域と空間的に明確な一致はしなかった。Al-rich領域内からの回折信号のみを積算した回折図形を構築し、動力学回折計算[6]結果とも比較して、対応する空間群をIa-3dの部分群の中から絞り込んだ。また、同じ4D-STEMデータを用いて各回折図形の回折スポット位置から二次元格子歪みの分布を可視化したところ、Al-rich領域でfine lamellae面の垂直方向のみに数%の格子収縮が見られた。さらに、[110], [111], [11-1], [001]方位の空間分布を可視化したところ、Al-rich領域とFe-rich領域との間で方位変化がみられるだけでなく、Al-rich領域内でも方位差が確認でき、Al-rich領域が二領域に分類されることが分かった。単一のAl-rich fine lamellae領域内で低対称相が異なる方位で共存していることは、単結晶X線回折データを解釈する上でも重要な情報になると考えられる。以上の消滅側を破る反射・二次元格子歪み・軸方位変化のデータを統合した考察によれば、各領域の対称性はI-1よりも高い可能性がある。
引用文献 [1] 下林ほか, 日本鉱物科学会年会80 (2005). [2] Nakamura et al., J. Mineral. Petrol. Sci., 112, 97 (2017). [3] Nakamura et al., J. Mineral. Petrol. Sci., 111, 385 (2016). [4] Xu et al., Am. Mineral., 108, 572 (2023). [5] Ophus, Microsc. Microanal. 25, 563 (2019). [6] Seto & Ohtsuka, J. Appl. Crystallogr. 55, 397 (2022).
4D-STEMによる位置分解電子回折実験の結果、Al-rich領域からIa-3dの消滅側を破る1-10反射の出現を捉えた。さらに極微弱な002反射が出現する領域も検出したが、Al-rich領域と空間的に明確な一致はしなかった。Al-rich領域内からの回折信号のみを積算した回折図形を構築し、動力学回折計算[6]結果とも比較して、対応する空間群をIa-3dの部分群の中から絞り込んだ。また、同じ4D-STEMデータを用いて各回折図形の回折スポット位置から二次元格子歪みの分布を可視化したところ、Al-rich領域でfine lamellae面の垂直方向のみに数%の格子収縮が見られた。さらに、[110], [111], [11-1], [001]方位の空間分布を可視化したところ、Al-rich領域とFe-rich領域との間で方位変化がみられるだけでなく、Al-rich領域内でも方位差が確認でき、Al-rich領域が二領域に分類されることが分かった。単一のAl-rich fine lamellae領域内で低対称相が異なる方位で共存していることは、単結晶X線回折データを解釈する上でも重要な情報になると考えられる。以上の消滅側を破る反射・二次元格子歪み・軸方位変化のデータを統合した考察によれば、各領域の対称性はI-1よりも高い可能性がある。
引用文献 [1] 下林ほか, 日本鉱物科学会年会80 (2005). [2] Nakamura et al., J. Mineral. Petrol. Sci., 112, 97 (2017). [3] Nakamura et al., J. Mineral. Petrol. Sci., 111, 385 (2016). [4] Xu et al., Am. Mineral., 108, 572 (2023). [5] Ophus, Microsc. Microanal. 25, 563 (2019). [6] Seto & Ohtsuka, J. Appl. Crystallogr. 55, 397 (2022).