一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R3:高圧科学・地球深部

2023年9月16日(土) 09:00 〜 12:00 822 (杉本キャンパス)

座長:川添 貴章(広島大学)、境 毅(愛媛大学)、西 真之(大阪大学)

11:15 〜 11:30

[R3-09] 核・マントル境界における水と鉄の交換反応

「発表賞エントリー」

*河野 克俊1、西 真之1、柿澤 翔2、井上 徹3、桑原 秀治4、近藤 忠1 (1. 阪大・院理、2. JASRI、3. 広大・院理、4. 愛媛大・GRC)

キーワード:地震波超低速度領域、マルチアンビルプレス実験、ブリッジマナイト、フェロペリクレース、水

地球の核―マントル境界部 (以下、CMB) は固体ケイ酸塩鉱物を主成分とするマントルと液体鉄である核が超高温高圧下で接する化学的不連続領域である。近年の地震学的研究により、CMBのマントル側には密度が高く、地震波の遅い地震波超低速度領域 (以下、ULVZs) が局所的に存在することが知られている。しかし、その成因については現在も議論が続いている。一方で、ULVZsの地震学的特徴は鉄に富んだ層の存在により説明可能であるため、外核からマントルへの鉄成分の移動は有力なULVZsの成因の一つとなっている。しかしながら、高圧下におけるケイ酸塩鉱物中の鉄の拡散速度は非常に遅く、単純な化学反応ではULVZsの厚みを形成することができない。 我々は、CMBの化学反応を促進する成分として「水」に着目する。近年の研究から、鉱物に含まれる少量の水成分はマントル対流により循環することが示唆されている。そのため本研究では、鉄―ケイ酸塩鉱物間の化学反応における少量の水成分の影響を明らかにすることを目的とした高温高圧下反応実験を行った。 高温高圧下反応実験にはマルチアンビル装置 (Orange-3000,GRC) を用いた。出発物質として0.5 wt.%のH2O成分を含んだブリッジマナイトと金属鉄および鉄ニッケル合金を層状に張り合わせたものを用いた。圧力は全ての実験で25 GPaであり、温度は1473 Kから2573 Kまでの範囲で行った  無水条件の先行研究では見られなかった (Fe,Mg)O 、即ちフェロペリクレースに富んだ反応帯の形成がすべての実験を通じて確認された。反応帯の厚さは試料に含まれる水の総量に依存し増加した。この反応帯は(1)鉱物中のH2O成分と鉄の化学反応 (H2O+3Fe→2FeH+FeO) と、(2)酸化鉄 (FeO) 成分のブリッジマナイト側への分配・拡散 (浸透) (FeO+MgO+MgSiO3=(Fe,Mg)O+(Fe,Mg)SiO3) により説明可能である。この反応帯の形成は鉄が溶けない低温条件でも溶ける高温条件でも確認された。溶融した鉄ニッケル合金はその組成を保ったままブリッジマナイト側へ移動しており、鉄ニッケル合金がフェロペリクレースに富んだブリッジマナイト内を浸透したことを強く示唆した。 また、フェロペリクレースのFeO成分の増加はフェロペリクレースの融点を大きく下げる効果があるためにこの層の部分溶融を引き起こすことが示唆される。 観測されるULVZsの体積を形成するために必要な水の量を上記反応メカニズム及び液体鉄―鉱物間の酸素の分配係数に基づき見積もった。フェロペリクレースの融点降下による6 %の部分溶融の存在を仮定すると1.5×1020 kgの水 (海水の約10 %に相当する量) が反応に使われた場合、ULVZsの大きさ、密度、地震波速度を同時に説明することが可能であった。このことから、地質学的時間スケールにおける地球深部への水循環を通じて起こる核―マントル境界の化学反応がULVZsを形成する可能性が示唆された。