日本畜産学会第131回大会

講演情報

口頭発表

2. 育種・遺伝

育種・遺伝Ⅰ

2023年9月20日(水) 09:00 〜 11:50 第V会場 (4番講義室)

座長:和田 健太(東京農業大学)、石原 慎矢(日本獣医生命科学大学)、石川 明(名大院生命農)、鈴木 恒平(家畜改良セ)、谷口 雅章(農研機構畜産研)、福田 智一(岩手大理工)

11:00 〜 11:10

[V-20-13] SRY遺伝子の突然変異に起因する黒毛和種雌牛におけるXY femaleの一症例

*増田 恒幸1、Nu Anh Thu Le2、寸田 祐嗣3、西村 亮3、中村 翔4、国枝 哲夫1 (1. 岡山理大獣、2. フエ大学、3. 鳥取大農、4. 名大院生命農)

性成熟期に達しても発情兆候を示さず、卵巣及び子宮の発育不全と診断された黒毛和種繁殖雌牛について、正常な雌性外陰部生殖器を有していたがSRY遺伝子陽性であったため、遺伝的な性決定異常を疑い各種検査を実施した。378日齢及び775日齢における血清中テストステロン濃度はいずれも検出限界以下であった。SRY遺伝子検査において翻訳領域における4塩基の欠損によるフレームシフト変異が認められた。染色体検査で105分裂中期像中、XY核型が95でXX核型は確認されず、フリーマーチンの可能性は否定された。内部生殖器の形態観察では雌性生殖器は概ね正常に形成されていたが軽度に萎縮し、特に両側卵巣は小型であり卵胞様構造物は確認できなかった。病理組織学的検索では左卵巣は退行黄体に類似した組織が認められたものの、卵胞あるいは卵母細胞は認められなかった。右卵巣は結合組織や石灰化組織に置換され卵巣固有構造は確認されなかった。FOXL2に対する免疫組織化学染色により左卵巣内に陽性細胞が散見された。当該牛の種雄牛精液を用いて次世代シークエンサーにより精子の遺伝子型を調べたところ、SRY遺伝子の変異を持つ精子は確認されなかったため、種雄牛の生殖細胞モザイクの可能性は否定された。以上から本症例は受精後に散発的に発生したSRY遺伝子の変異に起因するもので、黒毛和種の育種上問題となる遺伝的異常ではないと結論づけられた。