日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

一般講演

D 食品工学、加工、保蔵、バイオテクノロジー (Food Engineering, Process, Storage, and Biotechnology)

[2Mp] 食品物性

2024年8月30日(金) 15:00 〜 18:00 M会場 (2F N203)

座長:藤本 和士(関西大学)、粉川 美踏(筑波大学)、小泉 晴比古(広島大学)

15:00 〜 15:15

[2Mp-01] 歪みに着目した油脂結晶の多形転移制御

*小泉 晴比古1,2、路川 聡一3、大塚 沙耶3、佐藤 清隆2、上野 聡1,2 (1. 広大院統合生命、2. 広大生生、3. 東京フード)

キーワード:ココアバター代替脂、ファットブルーム、多形転移、歪み

【目的】チョコレートの美味しさは,その口溶けにあり,これはチョコレートに含まれるココアバター(CB)の結晶多形に起因している.口溶けの良いチョコレートは,CB結晶がV型の結晶多形であり,融点が33 °C と口の中の温度とほぼ同じになっている.しかし,長期間保存すると,このV型のCB結晶内に,熱力学的に最安定なVI型の結晶多形が多数晶出し,口溶けが悪くなる.この多形転移をファットブルーム現象と呼んでおり,チョコレートの賞味期限の原因となっている.ココアバター代替脂であるCBSにおいてもβ’型が口溶けに良く最適な結晶多形となっているが,長期間保存した場合,CBと同様に最安定多形のβ型に多形転移してしまう問題がある.近年我々は,CBSを結晶化させる際,結晶化温度が高い方(28 ºC)が,観察されるX線回折プロファイルがシャープとなり,CBSのβ’型からβ型への多形転移が抑制されることを明らかにした.一般的に,X線回折プロファイルの半値全幅の値は,結晶内の歪みの量と相関があり,金属や合金といった材料においては,歪みが多形転移に大きな影響を与えることが分かっている.そこで本発表では, CBSのβ’型内に蓄積された歪みを定量化し,その歪みが多形転移に与える影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】試料は,東京フードから提供されたCBSを用いた.55 ºCで1時間融解させたCBSを異なる温度で結晶化させ,放射光を用いたX線回折実験で歪みの定量化を行った.
【結果】結果として,結晶化温度を低くして育成されたβ’型内には,結晶化温度を高くして育成されたβ’型内よりも一桁大きな歪みが蓄積されていることが明らかとなった.これにより,油脂結晶においても,歪みが多形転移の重要な因子であることが示された.当日は,歪みが多形転移を促進するメカニズムを熱力学的に考察する.