日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

一般講演

D 食品工学、加工、保蔵、バイオテクノロジー (Food Engineering, Process, Storage, and Biotechnology)

[3Mp] 鮮度保持、資源循環、その他の食品工学

2024年8月31日(土) 14:30 〜 17:00 M会場 (2F N203)

座長:勝野 那嘉子(岐阜大学)、進藤 穣(鹿児島大学)、濱本 博三(名城大学)

16:45 〜 17:00

[3Mp-09] 交互積層法がキトサン-ゼラチン複合フィルムのチューリングパターンに及ぼす影響

*伊藤 隆一郎1、ルアンガパイ  ファファン3,4、宇佐美 正成1、堀 颯太1、勝野 那嘉子2、岩本 悟志2,3 (1. 岐大・院、2. 岐大・応生、3. 岐大・院・連農、4. チュラロンコン大学理学部)

キーワード:チューリングパターン、交互積層法、フィルム、小角X線散乱、キトサン

【目的】薄膜形成する天然高分子キトサンは生体適合性と抗菌性を有すが,単層フィルムは熱耐性や強度が低い.当研究室ではこれまでキトサンフィルムの性能改善をめざし,ゼラチンを用い,交互に積層をおこなってきたが1),3層以上の多層膜においてサバの体表に酷似した縞模様が生じることを確認した.本研究では,この模様がフィルム物性に及ぼす影響を明らかにすべく,手始めにパターンの発生条件の検討や生じた模様の観察を試みた.
【方法と結果】フィルムの作製には,酸処理ゼラチン,アルカリ処理ゼラチン,キトサンを用いた.ゼラチンは7.5%(W/V),キトサンは2.0%(W/V)の溶液を調製した後,それぞれに適量のグリセリンを加えた.これらの溶液をシャーレに流延し,37℃で乾燥させ,交互積層法により3層フィルムを作製し,試料とした.試料は室温,密閉容器内で保存した.キトサンとゼラチンによる計6種類ほぼすべての組み合わせのフィルムで模様を得ることができた.模様のパターンは積層の組み合わせによって異なり,幾何学的な模様を得た.文献調査より,この縞模様は反応拡散方程式,即ち2つの相反する反応が,互いを制御しあうときに生じるチューリングパターンであることが分かった.そこで,反応拡散方程式の一つであるGray-ScottモデルをもとにPythonでシミュレーションした結果,フィルムの模様とほぼ一致しているシミュレーション結果を得ることができた.今後,示差走査熱量計を用いて熱物性の測定を行い模様が生じることによるガラス転移温度の変化の確認や,模様の端緒となる微細構造を探るべく小角X線散乱法によるフィルムの構造解析を行う予定である.
1) F. Luangapai, S. Iwamoto, Int. J. Bio. Macromolecules, 249, 126061(2023).