The 71th Annual Meeting of JSFST

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Symposia

シンポジウムA

[SA2] シンポジウムA2:「やさいが彩る毎日のしあわせ~ウェルビーイングを産官学連携のちからで~」
産官学連携シンポジウム(産官学連携委員会・一般財団法人旗影会共催 後援:農林水産省)

Thu. Aug 29, 2024 2:30 PM - 5:15 PM Meijo Hall (1F N101)

世話人:船見 孝博(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)、田中 敏治(キユーピー株式会社)

4:05 PM - 4:30 PM

[SA2-04] Diversity in nutritional therapy of diabetes and role of vegetable

*Kazunori Utsunomiya1 (1. Nomura Hospital)

Keywords:diabetes, nutritional therapy, dietary fiber, vegetable

【講演者の紹介】
 宇都宮 一典(うつのみや かずのり)
 略歴:1979 年 3 月 東京慈恵会医科大学医学部卒業、2010 年 4 月 東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科主任教授、2019年 4月 東京慈恵会医科大学総合健診・予防医学センター長・臨床専任教授、2022年 4月 医療法人財団慈生会 野村病院 常勤顧問、東京慈恵会医科大学名誉教授

(糖尿病の病態の多様化)
 糖尿病は、インスリン作用の欠乏による代謝症候群と定義されている。日本人で大変を占める2型糖尿病は、インスリンの合成・分泌が遺伝的に制限のある体質的な要因に、内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗性が加わることによって発症すると考えられている。従来、2型糖尿病の成り立ちには人種があり、欧米人ではインスリン抵抗性を背景とするのに対して、日本人はやせ型でインスリン分泌不全を主病態とすると言われてきた。しかし、近年の我が国における糖尿病の増加の裏には、肥満の蔓延があり、欧米人同様にインスリン抵抗を基軸として発症している。この現象は、糖尿病合併症の疾患構造の変化にも表れている。これまで日本人の糖尿病合併症は腎症をはじめする細小血管症が主体であったが、現在増加しているのは、動脈硬化性疾患による大血管症であり、その要因として内臓脂肪型肥満によるインスリン抵抗性が大きな役割を演じている。かかる病態の変化には、日本人の食生活の変貌が大きく関与しいている。最近の日本人の食パターンをみると、米・野菜を中心に摂る和食嗜好は減り、動物性食品を摂る洋食嗜好が増えている。中でも、動物性脂質摂取量の増加が内臓脂肪型肥満に繋がると考えられている。一方、超高齢社会を迎え、糖尿病人口の高齢化が進んでいる。高齢者糖尿病の治療目標には、フレイル・サルコペアの予防と管理が挙げられている。近年、体格は肥満であっても、筋肉量が減少したサルコペニア肥満と呼ばれる病態が、その不良な生命予後から注目されている。フレイル・サルコペニアを防ぐためには、如何に適正なエネルギーを確保するか重要な課題であり、壮年期とは異なる視点が求められる。日本人の糖尿病の治療は、このような病態ならびに属性の多様性を踏まえ、個別化が必須のこととなっている。
(糖尿病における食事療法と野菜)
 食事療法は糖尿病治療の根幹に位置図けられている。その目的は、インスリン分泌不全に対してこれに見合う摂取エネルギー量を設定し、インスリン抵抗性に対しては肥満の是正を介して、インスリン作用を促し、糖尿病状態を改善することにある。しかし、食生活が多様化した現在、食事療法に一律の基準を定めることは実効性に乏しい。さらに、高齢者糖尿病の食事療法では、上述した高齢者特有の身体的・社会的な特徴に配慮する必要がある。食物繊維は、その摂取量が心血管疾患、がん、糖尿病の発症リスクと負の関係を示すことが知られており、糖尿病の食事療法では重要な意義を有する。「日本人の食事摂取基準2020版」では、成人における食物繊維摂取量の目標を男性20g、女性17g/日としている。食物繊維の主たる供給源は野菜であることから、「健康日本21(第二次)」では野菜の目標摂取量を一日350g以上としたが、成人の平均野菜摂取量は男性280g、女性270g/日と大きく下回っており、増加はみられない。特に若年者の摂取量が少なく、日本人の食の在り方を巡る諸問題を象徴する現象とみることができよう。