The 71th Annual Meeting of JSFST

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Symposia

シンポジウムA

[SA3] シンポジウムA3

Thu. Aug 29, 2024 2:30 PM - 5:15 PM Room S4 (3F N301)

世話人:安藤 聡(愛知淑徳大学)

3:10 PM - 3:50 PM

[SA3-02] Metabolomic Identification of Freshness Markers for Fruits and Vegetables

*Kohei Nakano1 (1. The United Graduate School of Agricultural Science, Gifu University)

Keywords:freshness, fruits and vegetables, metabolomics

    【講演者の紹介】
    中野浩平(なかのこうへい)
    1993年 九州大学農学部農業工学科卒業,1995年 九州大学大学院農学研究科修士課程(農業工学専攻)修了,1998年 九州大学大学院農学研究科博士課程(農業工学専攻)修了,同年 岐阜大学農学部助手,2002年 同講師,2006年 岐阜大学応用生物科学部助教授(准教授),2015年 岐阜大学大学院連合農学研究科教授,現在に至る.

    世界で生産される青果物の40%以上が,消費されることなく廃棄されていると推計されている.食品ロスは,発展途上国において特に顕著で,流通インフラの整備不足がその原因の一つとして指摘されている.一方,我が国においては,1970年代より生産から消費までの過程を一貫した低温管理で繋ぐコールドチェーンの整備が進み,発展途上地域と比較してロスは少ない.しかしながら,卸売市場での滞荷やトラックへの商品の積み下ろし時に一時的に低温が途切れることがあり,品質低下や棚持ち期間の減少,ひいてはポストハーベストロスに繋がっている.
    —生鮮食品は鮮度が命— 魚介類や青果物,食肉に対する馴染み深いフレーズである.これらの食品は特に傷みやすく,流通過程での鮮度管理に留意しつつ,迅速に消費しなければならないことを示している.鮮度は,消費者が生鮮食品を購入する際の関心事である.高鮮度な食品を求める消費者ニーズに応えるために,流通の現場では低温管理の徹底や機能性フィルムによる包装など,鮮度保持に対する絶え間ない努力と工夫がなされている.同時に,コスト低減や迅速性にも留意しなければならない.荷捌きなどの作業効率化に注力するあまり,粗雑な取り扱いによって鮮度低下が生じる場合も少なくない.
    “鮮度”は文字通り“新鮮さの度合い”のことである.度合いであるからには,温度や湿度のように基準や尺度が定義されなければならない.鮮魚においては,魚肉中に含まれるATPの分解代謝に基づいたK値が定量的な鮮度指標として認知され,水産物の流通技術開発に役立てられてきた.しかしながら,青果物では未だに学術的なコンセンサスが得られた鮮度指標は存在しない.相変わらず,外観や触感などの,いわゆる“目利き”によって判断される.こうした感覚に頼った評価は主観的であり,判断基準も評価者によって異なる.高鮮度を根拠とした高付加価値化や鮮度管理システムの高度化のためには,流通過程や店頭あるいは食卓で鮮度チェックを行い,情報としてフィードバックするのが有効である.そのためには,青果物の鮮度を客観的に計測して定量値として与える技術が必須となる.
    メタボロミクスは,質量分析計などにより代謝物を網羅的に検出し,生物機能の物質レベルでの解明やマーカー分子の発見に威力を発揮する比較的新しい分析手法である.演者らは,既往の鮮度評価法の欠点を克服したユニバーサルな方法の開発を目的に,メタボロミクスによる鮮度マーカー代謝物の同定を進めてきた.研究では,生体膜構成脂質の尾部を成す不飽和脂肪酸が活性酸素による過酸化を受けることで生じるカルボニル化合物に着目し,異なる期間・温度に貯蔵した大豆モヤシに含まれる同化合物をLC-MS/MSにより網羅的に分析した.質量分析によって約200種類のカルボニル化合物が大豆モヤシから検出されたが,収穫からの積算呼吸量の関係性からアブシジン酸(ABA)が有力なマーカー代謝物として同定された.ABAは植物ホルモンの一つで,乾燥ストレスに応答して気孔の閉鎖を促す植物ホルモンである.鮮度マーカー代謝物としての機能が見出されたことは極めて意義深く,ABAレベルの計測による鮮度の絶対評価の可能性が示された.