日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウムA

[SA3] シンポジウムA3

2024年8月29日(木) 14:30 〜 17:15 S4会場 (3F N301)

世話人:安藤 聡(愛知淑徳大学)

15:55 〜 16:35

[SA3-03] 食品廃棄物の有効活用に向けた発酵技術の開発

*真野 潤一1 (1. 農研機構 食品研究部門)

キーワード:食品廃棄物、アップサイクル、発酵

    【講演者の紹介】
    国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門 上級研究員
    略歴: 2003年京都大学農学部卒.京都大学大学院農学研究科修士課程修了後,2006年から農業・食品産業技術総合研究機構に勤務.2010年に筑波大学大学院生命環境科学研究科にて博士(農学)を取得.2022年から筑波大学生命環境系教授(連携大学院)を兼務.

    食品廃棄の問題が国際的に大きな関心を集めている.国連の報告では,世界全体で1年間に廃棄される食品は食料全体の3分の1に相当する13億トンに及ぶとされており,2015年に定められたSDGsにおいても,食品廃棄の半減が2030年までに達成すべき目標の1つとして掲げられている(SDGs 12.3).一方,我が国では,2000年に食品リサイクル法が制定され,食品廃棄物の削減・有効活用の取り組みが行われてきた.しかし,諸外国以上に高品質で安全な食品が求められる我が国の社会環境において,製造・流通・消費の各段階で一定の廃棄が生じることは避けがたく,焼却などの方法で処分されている食品廃棄物もいまだ多く残されている.こうした国内外の情勢を踏まえ,我々は,食品廃棄物の活用を促進するための技術開発に取り組んでいる.
    現在,食品廃棄物の多くは,サイレージ化,堆肥化,メタン発酵等の発酵処理を経て,飼料,肥料,エネルギーとして再利用されている.しかし,これらの発酵技術が普及してもなお,未利用の廃棄物が存在することから,食品廃棄物の有効活用を一層促進するためには,発酵によってさらに大きな付加価値を生み出す「アップサイクル」が必要と考えられる.そこで我々は,食品廃棄物の飼料利用促進のため,発酵によるオメガ3脂肪酸生産に着目し,研究を行っている.
    オメガ3脂肪酸は中性脂肪低減・血圧抑制などの健康効果で知られている.以前は,魚に含まれるDHAやEPAが多く摂取されていたが,食生活の欧米型化に伴って食事に占める魚の割合が減少したことから,オメガ3脂肪酸の積極的な摂取が推奨されている.畜産業においても,肉や卵に含まれるオメガ3脂肪酸の含有量を高める取り組みがこれまでに行われてきた.オメガ3脂肪酸の一種であるα-リノレン酸を飼料に加えることでオメガ3脂肪酸類を豊富に含む肉類・鶏卵が生産可能であり,実際に高付加価値な製品として販売されている.こうした事例をもとに,我々は,麹菌の発酵を利用して食品廃棄物からα-リノレン酸を豊富に含む飼料を生産し,食品廃棄物のアップサイクルを実現しようと試みている.
    また,食品廃棄物からのマテリアル生産という観点では,脂肪酸ポリオールエステル発酵という独自技術の開発に取り組んでいる.我々は,自然界から微生物を探索する中で,Rhodotorula paludigenaという酵母が糖質から脂肪酸ポリオールエステルを培地中に著量分泌生産することを見出した.脂肪酸ポリオールエステルは,界面活性作用を持つ新しいバイオ糖脂質であり,化粧品原料,潤滑油,洗浄剤,ポリマー素材等としての応用が期待できる.これまでの研究の結果,脂肪酸ポリオールエステル生産酵母の特性から,廃棄シロップなど,糖質を多く含む食品廃棄物からの生産が可能と考えている.
    こうした技術を実用化するためには,発酵プロセスの確立だけでなく,食品廃棄物の供給者と処理事業者,利用者をつなぐリサイクルループの形成が必須である.関連する事業者の方々とのネットワーク構築についても今後,取り組みを進めていきたいと考えている.