4:10 PM - 4:35 PM
[SC1-05] Sensory mechanism of dietary psyllium fiber and production of antimicrobial peptides in the intestinal tract
Keywords:psyllium, antimicrobial peptides, tuft cells, intestinal barrier
鈴木 卓弥(すずき たくや):広島大学大学院統合生命科学研究科 教授
略歴:2005年 北海道大学大学院農学研究科 学位取得(博士(農学)),2005年 日本学術振興会 特別研究員(PD),2008年 北海道大学大学院農学研究員 博士研究員,2010年 広島大学大学院生物圏科学研究科 講師,2013年 同大学 准教授,2016年 同大学 教授,2019年 広島大学大学院統合生命科学研究科 教授(組織改編、現職)
近年の研究により,栄養素がシグナル分子として生体機能を制御することがわかってきている.なかでも腸管上皮は,摂取された栄養素とファーストコンタクトする場であり,例えば脂肪酸やペプチドがGPCRなどの受容体に認識されて,食欲や血糖値を調節することも報告されている.しかしながら,シグナル分子としての食物繊維の役割はほとんど明らかにされていない.食物繊維は消化酵素に耐性をもつ食品成分の総体と定義され,小腸では消化も吸収もされず,大腸において腸内細菌による代謝を通して多彩な生理機能を発揮する.一方で,これまでに私たちは,一部の食物繊維が小腸上皮の細胞保護タンパク質を誘導することや炎症応答を抑えることを観察しており,食物繊維が腸内細菌に依存しないメカニズムで細胞応答を起こすことを見出している.以前の研究により,食物繊維がTLRs(トール様受容体)などのパターン認識受容体と相互作用することも示されているものの,腸管上皮による食物繊維の認識機構については不明な点が多く残されている.
腸管上皮は,栄養吸収細胞(消化と吸収)や杯細胞(粘液産生),パネート細胞(抗菌ペプチド産生)などに構成されるヘテロな細胞集団であり,相互に連携しながら腸管機能を制御している.そのなかでタフト細胞は,長く密集した特徴的な微絨毛(タフト;房)をもち,存在割合が1%に満たない希少な細胞である.タフト細胞の生理的役割は長年不明であったが,最近の研究により,タフト細胞は腸管内に侵入した寄生虫を感知すると,IL-25を産生し,杯細胞やパネート細胞に粘液や抗菌ペプチド産生を促すことが見出された.つまり,タフト細胞は腸管内を監視するセンサー細胞であるとともに,腸管の生体防御システムを統括する司令塔になる細胞と考えられる.腸管は摂取した食物とともに大量の異物が流れ込む場であるため,それらの侵入を防ぐ生体防御(バリア)の最前線を担っている.この腸管バリアは,複数のメカニズムにより統合されており、上皮細胞の接着構造タイトジャンクション、杯細胞が産生する粘液、パネート細胞が産生する抗菌ペプチドなどによって構成されている.腸管バリアが正常に維持されているとき,粘液や抗菌ペプチドが上皮を被覆し,タイトジャンクション構造が上皮細胞を堅固に接着することにより,有害異物の侵入は抑えられている.しかしながら,何らかの要因により,この腸管バリアが傷害を受けると,これらの異物が粘膜内や体内に侵入し,炎症を基盤とした様々な疾患につながる.過去の研究において,食物繊維が腸内細菌叢の改善を通じて,間接的に大腸のバリアを保護することは報告されているものの,食物繊維の直接的な作用に関する研究は極めて限定的と言える.ごく最近,わたしたちは,オオバコ科の植物であるサイリウム(Plantago ovata)に由来する食物繊維の摂取が,小腸上皮における抗菌ペプチド(SPRR2A,RELMβなど)の産生を増加させ,腸管バリアを強固にすることを見出した.この作用には,腸管上皮タフト細胞による食物繊維の認識,自然免疫リンパ球を含めた2型免疫応答が関わることもわかってきている.本講演では,腸管上皮における食物繊維サイリウムの認識とそれを起点とした抗菌ペプチド産生について紹介する.
略歴:2005年 北海道大学大学院農学研究科 学位取得(博士(農学)),2005年 日本学術振興会 特別研究員(PD),2008年 北海道大学大学院農学研究員 博士研究員,2010年 広島大学大学院生物圏科学研究科 講師,2013年 同大学 准教授,2016年 同大学 教授,2019年 広島大学大学院統合生命科学研究科 教授(組織改編、現職)
近年の研究により,栄養素がシグナル分子として生体機能を制御することがわかってきている.なかでも腸管上皮は,摂取された栄養素とファーストコンタクトする場であり,例えば脂肪酸やペプチドがGPCRなどの受容体に認識されて,食欲や血糖値を調節することも報告されている.しかしながら,シグナル分子としての食物繊維の役割はほとんど明らかにされていない.食物繊維は消化酵素に耐性をもつ食品成分の総体と定義され,小腸では消化も吸収もされず,大腸において腸内細菌による代謝を通して多彩な生理機能を発揮する.一方で,これまでに私たちは,一部の食物繊維が小腸上皮の細胞保護タンパク質を誘導することや炎症応答を抑えることを観察しており,食物繊維が腸内細菌に依存しないメカニズムで細胞応答を起こすことを見出している.以前の研究により,食物繊維がTLRs(トール様受容体)などのパターン認識受容体と相互作用することも示されているものの,腸管上皮による食物繊維の認識機構については不明な点が多く残されている.
腸管上皮は,栄養吸収細胞(消化と吸収)や杯細胞(粘液産生),パネート細胞(抗菌ペプチド産生)などに構成されるヘテロな細胞集団であり,相互に連携しながら腸管機能を制御している.そのなかでタフト細胞は,長く密集した特徴的な微絨毛(タフト;房)をもち,存在割合が1%に満たない希少な細胞である.タフト細胞の生理的役割は長年不明であったが,最近の研究により,タフト細胞は腸管内に侵入した寄生虫を感知すると,IL-25を産生し,杯細胞やパネート細胞に粘液や抗菌ペプチド産生を促すことが見出された.つまり,タフト細胞は腸管内を監視するセンサー細胞であるとともに,腸管の生体防御システムを統括する司令塔になる細胞と考えられる.腸管は摂取した食物とともに大量の異物が流れ込む場であるため,それらの侵入を防ぐ生体防御(バリア)の最前線を担っている.この腸管バリアは,複数のメカニズムにより統合されており、上皮細胞の接着構造タイトジャンクション、杯細胞が産生する粘液、パネート細胞が産生する抗菌ペプチドなどによって構成されている.腸管バリアが正常に維持されているとき,粘液や抗菌ペプチドが上皮を被覆し,タイトジャンクション構造が上皮細胞を堅固に接着することにより,有害異物の侵入は抑えられている.しかしながら,何らかの要因により,この腸管バリアが傷害を受けると,これらの異物が粘膜内や体内に侵入し,炎症を基盤とした様々な疾患につながる.過去の研究において,食物繊維が腸内細菌叢の改善を通じて,間接的に大腸のバリアを保護することは報告されているものの,食物繊維の直接的な作用に関する研究は極めて限定的と言える.ごく最近,わたしたちは,オオバコ科の植物であるサイリウム(Plantago ovata)に由来する食物繊維の摂取が,小腸上皮における抗菌ペプチド(SPRR2A,RELMβなど)の産生を増加させ,腸管バリアを強固にすることを見出した.この作用には,腸管上皮タフト細胞による食物繊維の認識,自然免疫リンパ球を含めた2型免疫応答が関わることもわかってきている.本講演では,腸管上皮における食物繊維サイリウムの認識とそれを起点とした抗菌ペプチド産生について紹介する.