4:35 PM - 5:00 PM
[SC1-06] Arabinoxylan – its chemical structure, biosynthetic mechanism, and physiological function
Keywords:arabinoxylan, ferulic acid, biosynthetic enzymes, immunostimulation, intestinal bacteria
鈴木 史朗(すずき しろう):岐阜大学応用生物科学部 准教授
略歴:1997年 京都大学農学部林産工学科卒業,1999年 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻修士課程修了,2002年 同博士後期課程修了・博士(農学)取得,同年 京都大学木質科学研究所(現 生存圏研究所)非常勤研究員,2004年 日本学術振興会海外特別研究員(派遣先:ノースカロライナ州立大学Vincent L. Chiang研究室),2006年 京都大学生存基盤科学研究ユニット助教,2010年 京都大学生存圏研究所助教,2020年より現職
ヘミセルロースは,セルロース,リグニンとともに植物細胞壁を構成する主要な高分子で,アラビノキシラン(AX)はイネ科植物の主要なヘミセルロース成分である.AXはイネ科植物体の細胞壁を構成する主要成分の一つであるのみならず,コムギ胚乳細胞壁の約7割を構成し,精米や精麦,製粉工程で発生する種皮由来の米糠やフスマ(ブラン)にも約6割含まれる.AXは,β(1→4)結合したキシラン主鎖のC2位,C3位またはその両方のヒドロキシ基のところどころにアラビノフラノース(Araf)側鎖が結合した構造をしており,さらにAraf側鎖C5位のヒドロキシ基にフェノール酸の一種であるフェルラ酸やp-クマール酸が結合している.Arafに結合しているフェルラ酸残基は,他のAXに結合しているフェルラ酸残基やリグニンと共有結合を形成し,高分子と高分子が結合した超分子構造をとる.この構造は,細胞壁の物理的強度の増加に寄与する反面,AXの酵素消化性を妨げる原因ともなっている.
AXは,他のヘミセルロースやペクチンと同様,ゴルジ装置で合成され,キシラン主鎖はゴルジ装置内腔に向けて膜上に保持されたキシラン合成酵素複合体によって合成されるモデルが提案されている.この複合体モデルでは,GT43に属する1回膜貫通ドメインを有する2種類のタンパク質(IRX9,IRX14)が,GT47に属し膜貫通ドメインを有しないがキシロース転移触媒サイトを有するタンパク質(IRX10)をゴルジ装置内腔で支え,UDP-キシロースを糖ドナーとしてキシラン主鎖を合成する.一方Araf側鎖はGT61に属する別の糖転移酵素であるXATにより付加される.このAraf付加がキシラン主鎖の合成と同時あるいはキシラン主鎖伸長後に起こるのか不明である.さらに,フェノール酸類のArafへの転移機構も不明な点が多く,BAHD型アシル基転移酵素が作用してフェノール酸類がUDP-Arafに転移して生成したコンジュゲートがXAXという別の糖転移酵素によりキシラン主鎖に付加するという機構と,キシラン主鎖に結合したAraf残基にBAHD型アシル基転移酵素が作用してこれらのフェノール酸が転移する2つの機構が主に提唱されているが,実験的な確証はない.さらに,IRX10もXATもイネやコムギをはじめ,多数ゲノム上にホモログが存在するが,これらの多くの酵素機能は不明で,AXの生合成機構は未知の点が多い.
AXは,β-グルカンと同様,MACs (Microbiota-accessible carbohydrates)としてヒト体内に摂取され,腸内細菌により分解を受ける.生じたオリゴ糖は,免疫賦活化作用,プレバイオティクス作用,抗酸化作用を示すことが知られており,低分子のAXのAraf側鎖が免疫賦活化作用に,Arafの配置はプレバイオティクス作用に,フェルラ酸残基が抗酸化作用にそれぞれ寄与するとされている.体内に取り込まれたオリゴ糖はNK細胞をはじめとする免疫系細胞の活性を高める.また,AXやそのオリゴ糖は,腸内細菌の組成に影響を与えるだけでなく,これを栄養源とした発酵により酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸を生成し,カルシウムやマグネシウムの吸収が促進され,有害な細菌類の成長が抑制されるとの報告がある.このようにAXは,オオムギのβ-グルカンに続く第二のヘミセルロース系機能性食物繊維として,今後の利活用が期待される.
略歴:1997年 京都大学農学部林産工学科卒業,1999年 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻修士課程修了,2002年 同博士後期課程修了・博士(農学)取得,同年 京都大学木質科学研究所(現 生存圏研究所)非常勤研究員,2004年 日本学術振興会海外特別研究員(派遣先:ノースカロライナ州立大学Vincent L. Chiang研究室),2006年 京都大学生存基盤科学研究ユニット助教,2010年 京都大学生存圏研究所助教,2020年より現職
ヘミセルロースは,セルロース,リグニンとともに植物細胞壁を構成する主要な高分子で,アラビノキシラン(AX)はイネ科植物の主要なヘミセルロース成分である.AXはイネ科植物体の細胞壁を構成する主要成分の一つであるのみならず,コムギ胚乳細胞壁の約7割を構成し,精米や精麦,製粉工程で発生する種皮由来の米糠やフスマ(ブラン)にも約6割含まれる.AXは,β(1→4)結合したキシラン主鎖のC2位,C3位またはその両方のヒドロキシ基のところどころにアラビノフラノース(Araf)側鎖が結合した構造をしており,さらにAraf側鎖C5位のヒドロキシ基にフェノール酸の一種であるフェルラ酸やp-クマール酸が結合している.Arafに結合しているフェルラ酸残基は,他のAXに結合しているフェルラ酸残基やリグニンと共有結合を形成し,高分子と高分子が結合した超分子構造をとる.この構造は,細胞壁の物理的強度の増加に寄与する反面,AXの酵素消化性を妨げる原因ともなっている.
AXは,他のヘミセルロースやペクチンと同様,ゴルジ装置で合成され,キシラン主鎖はゴルジ装置内腔に向けて膜上に保持されたキシラン合成酵素複合体によって合成されるモデルが提案されている.この複合体モデルでは,GT43に属する1回膜貫通ドメインを有する2種類のタンパク質(IRX9,IRX14)が,GT47に属し膜貫通ドメインを有しないがキシロース転移触媒サイトを有するタンパク質(IRX10)をゴルジ装置内腔で支え,UDP-キシロースを糖ドナーとしてキシラン主鎖を合成する.一方Araf側鎖はGT61に属する別の糖転移酵素であるXATにより付加される.このAraf付加がキシラン主鎖の合成と同時あるいはキシラン主鎖伸長後に起こるのか不明である.さらに,フェノール酸類のArafへの転移機構も不明な点が多く,BAHD型アシル基転移酵素が作用してフェノール酸類がUDP-Arafに転移して生成したコンジュゲートがXAXという別の糖転移酵素によりキシラン主鎖に付加するという機構と,キシラン主鎖に結合したAraf残基にBAHD型アシル基転移酵素が作用してこれらのフェノール酸が転移する2つの機構が主に提唱されているが,実験的な確証はない.さらに,IRX10もXATもイネやコムギをはじめ,多数ゲノム上にホモログが存在するが,これらの多くの酵素機能は不明で,AXの生合成機構は未知の点が多い.
AXは,β-グルカンと同様,MACs (Microbiota-accessible carbohydrates)としてヒト体内に摂取され,腸内細菌により分解を受ける.生じたオリゴ糖は,免疫賦活化作用,プレバイオティクス作用,抗酸化作用を示すことが知られており,低分子のAXのAraf側鎖が免疫賦活化作用に,Arafの配置はプレバイオティクス作用に,フェルラ酸残基が抗酸化作用にそれぞれ寄与するとされている.体内に取り込まれたオリゴ糖はNK細胞をはじめとする免疫系細胞の活性を高める.また,AXやそのオリゴ糖は,腸内細菌の組成に影響を与えるだけでなく,これを栄養源とした発酵により酢酸や酪酸などの短鎖脂肪酸を生成し,カルシウムやマグネシウムの吸収が促進され,有害な細菌類の成長が抑制されるとの報告がある.このようにAXは,オオムギのβ-グルカンに続く第二のヘミセルロース系機能性食物繊維として,今後の利活用が期待される.