日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE11] 幼児期における情動理解に関する検討

課題の「言語的難しさ」が回答に与える影響に着目して

山本信 (東北大学大学院)

キーワード:情動理解, 言語理解, 幼児

問題と目的
 幼児の情動発達を捉えようとする際には,図版を用いた仮想場面を提示する方法が用いられることが多い。しかし,得られた回答には幼児の言語理解能力や言語表現能力が反映されている可能性がある。本研究では,課題の「言語的難しさ」が回答に与える影響に着目し,幼児の情動理解を正確に捉えるための課題作成についての検討を行う。

方  法
1. 対象児:A保育所の4歳児8名,5歳児7名。B保育所の4歳児7名,5歳児11名。
2. 調査期間:2017年10月,11月。
3. 調査課題:
情動理解課題:主人公が,実際に喚起している「本当の情動」とは異なる「みかけの情動表出」を行う仮想場面を3枚の図版を用いて提示し,回答は,図版を用いて4つの選択肢のうち1つを選択する形式で行う。(1) 表情理解課題(4問):実際に喚起した「本当の情動(ネガティブ情動)」に対して,行動を制御する「意図」を提示し,主人公がどのような「表情」をするかの理解を測定する。
 その際,口頭での教示や説明のみを変えた2種類の課題A,Bを作成した(Table 1)。課題A(保育所Aで実施)と比較して,課題B(保育所Bで実施)は,説明を短くし,言語表現もより伝わりやすいものにした。また,比較課題として,両保育所において,図版・内容ともに同じである(2) 意図理解課題(4問)を実施した。

結果と考察
 表情理解課題A,Bそれぞれについて,回答を「本当の情動」を「そのまま表情表出する」とした回答と,「表情抑制をする(異なる表情を表出する)」とした回答に分け,2×2のクロス集計表を作成した(Table 2)。それぞれの回答数に関して課題毎における違いがあるかどうかを調べるためにχ2検定を行ったところ,回答数の偏りは有意であり(χ2=(1,N=132)=4.77, p<.05),課題Bにおいて,「本当の情動(ネガティブ情動)」を抑制して,異なる表情を表出するとした回答が多いという結果となった。また,意図理解課題については,両保育所での回答の偏りは見られなかった。
 課題A,Bにおける年齢別の回答数をTable 3に示す。それぞれの課題について,年齢による回答数の偏りは有意ではなかった。しかし,課題Aでは4,5歳児ともに「そのまま表情表出する」とした回答が多くなり,課題Bでは,4歳児は「そのまま表出するとした」回答が多くなり,5歳児は,「表情抑制をする」とした回答が多くなった。
 幼児期後期には,特にネガティブ情動の抑制に関する理解が発達してくることが多くの先行研究によって示されている。本研究では,その発達的変化を有意な差として捉えることはできなかった。しかし,課題の「言語的難しさ」の違いによって,幼児の回答に影響が出ることが示され,幼児の情動理解を正確に捉えるためには,幼児の言語理解力を十分に考慮した上で課題を作成する必要があることが示唆された。
 今後は,情動理解課題の修正を行い,幼児期における情動理解について詳細な検討を行っていく。