日本教育心理学会第60回総会

講演情報

ポスター発表

[PE] ポスター発表 PE(01-71)

2018年9月16日(日) 13:30 〜 15:30 D203 (独立館 2階)

在席責任時間 奇数番号13:30~14:30 偶数番号14:30~15:30

[PE48] 児童福祉施設職員を対象としたマインドフルネス・ヨーガ

技法の実施前後でみられる心身の変化に着目して

相馬花恵1, 堀越佐江子#2, 川上景子#3, 谷聡子#4, 越川房子5 (1.駿河台大学, 2.東京都児童相談センター, 3.東京都児童相談センター, 4.八王子児童相談所, 5.早稲田大学)

キーワード:マインドフルネス・ヨーガ, 児童福祉施設職員, 二次元気分尺度

目  的
 児童養護施設など,児童福祉に関する事業を担う施設の職員は,その専門的な職務故に,心身共に強い負担を強いられている(e.g. 田島・谷島,2014)。こうした指摘から,児童福祉施設職員に対し,自身の適応を維持・促進する力を育成する働きかけを行うことは重要であるといえる。
 そうした働きかけの一つとして,マインドフルネス・ヨーガがある。マインドフルネス・ヨーガは,身体的エクササイズや呼吸エクササイズを通して,今ここにおける内的・外的刺激に対する反応パターンを,判断することなく受容的な態度で観察する力を涵養する技法である。本技法では,たとえ不快な出来事に直面しても,そこから生じる不快な思考を反すうしたり,回避したりすることなく,今ここにおける経験に気づきを向け,受け入れるよう促される。こうしたマインドフルネスな態度により,不快な出来事に巻き込まれて不適応に陥ることなく,自らをマネジメントしながら生きることが可能になると指摘されている(Akerjordet & Severinsson, 2010)。
 以上を踏まえ,本研究では,児童福祉施設職員を対象にマインドフルネス・ヨーガを実施し,技法の実施前後で見られる心身の変化を検討する。

方  法
協力者:研究の参加に同意が得られた児童福祉施設に勤務する女性職員29名(平均年齢35.6±11.68歳)
手続き:まず,技法実施前に,二次元気分尺度(TDMS;坂入・征矢・木塚,2009)を実施した。続いて,マインドフルネス・ヨーガ (Douglass, 2011; Kabat-Zinn, 1990を参考に構成)を実施した。その後,再度TDMSを実施した。さらに,技法実施に伴う心身の変化に関する感想を得るため,自由記述式のアンケートを実施した。

結  果
TDMS得点の推移:TDSMの各指標得点について,技法実施前と実施後の間でt検定を行った。その結果,安定度(t(28)=-6.92, p<.001),快適度(t(28)=-4.21, p<.001),覚醒度(t(28)=4.28, p<.001)に有意差が認められた。具体的には,技法実施前に比べ実施後の方が,安定度および快適度得点が上昇し,覚醒度得点が減少した。
心身の変化に関する自由記述内容:まず,心理的な変化として,「気持ちが落ち着いた」,「リラックスできた」などといった感想が得られた。続いて,身体的な変化として,「すっきりした」,「眠くなった」などといった感想が得られた。また,「身体が脱力していく様子など,今の状態を意識することができた」といった感想も得られた。

考  察
 TDMS得点の推移および自由記述式のアンケート内容を分析・整理した結果から,マインドフルネス・ヨーガを通して,児童福祉施設職員の心身の状態は,ゆったりと落ち着いた状態,および,快適で明るい気分の状態へと変化したことが示された。また,技法実施前の興奮した状態から,眠気が促された状態へと変化したことも示された。
 さらに,自由記述の中には,技法を通して感じられた「今ここ」における自身の状態に,改めて気づきを向けたことを報告する感想もみられた。
 以上より,児童福祉施設職員の心身の適応感の促進や,「今ここ」における自身の状態に目を向ける態度の涵養に,マインドフルネス・ヨーガが有効に働く可能性が示唆された。
 本研究では,1回のマインドフルネス・ヨーガ実施に伴う心身の変化を検討した。今後,統制群の設定等手続き上の修正を行ったうえで,児童福祉施設職員を対象に継続的に技法を実施し,その効果を検討することが求められる。