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[T2-O-4] 熊野灘南海トラフ海底地すべりと付加体テクトニクスの関連
キーワード:熊野灘南海トラフ、海底地すべり、磁気ファブリック
大陸縁辺部において海底地すべりは,海底地形,3次元地震探査画像,掘削コアの岩相などから広い範囲で認識されており普遍的な地質現象と考えられる.一方,その発生を引き起こす原因は必ずしも明らかでない.熊野灘南海トラフでは大規模な海底地すべりが,レート境界断層から派生する分岐断層付近に認識されていた(Kimura et al., 2011など).南海トラフでは海底地すべりのトリガーとして100〜200年程度の周期で発生するM8クラスの地震が考えられた.実際,分岐断層上盤における表層堆積物の角礫化の発見(Sakaguchi et al., 2011)があり,地震荷重で表層堆積層が破砕,海底地すべりの発生といったプロセスが考えられる.高密度3次元地震探査で明らかにされた分岐断層帯下部斜面の海底下のイメージは海底地すべり層と解釈される音響的透明層が発達しており,この分布からも分岐断層付近の活動と斜面崩壊の関連性が考えられた.しかしIODP Exp.333の掘削の結果によると海底地すべりの再来周期は約30-350kaであり,南海地震の再来周期に比べると明らかに頻度が低い.このような長い再来周期を説明するために間氷期の斜面の不安定性の可能性などが提案された(Kremer et al., 2017). 磁気ファブリックを用いた熊野灘南海トラフ海底地すべり層の流動方向の再構築(Kanamatsu et al., 2014)では,1Maからおよそ0.35Ma(Kremer et al., 2017の層序による)では北東から,0.35Maから0Maは北西へ崩壊地が遷移したとされ,流れの方向転換は,地表の傾斜条件の変化を反映していると考えられた.これを検証するため,現在の海底地すべり層の発生域である分岐断層帯付近の表層地質,地形を詳細にすることで現行の地質現象の把握を試みた.東京大学大気海洋研究所の「無人探査機NSS」を用いて採取された表層堆積物を解析し,コアの物性,年代,構造などを解析した.堆積物コアではX-CT画像で流動した構造を示す海底地すべり層が海底下150-300cmに認められた.これを覆う堆積物の年代は20kaであった.流動層そのものの年代は43.5kaより古い事がわかった.また流動層の下位の年代からは削剥はほとんどなかった事がうかがえる.磁気ファブリックと古地磁気方位から流動方向は北西から供給されたと考えられる.一方,詳細な海底地形の解析を行った結果,海底表層に数mの段差の北北西―南南東と北西―南西の2系統のリニエーションが認められた.このリニエーションは斜面の最大傾斜方向とゆるく斜交する.海底地形のリニエーションの一部は明らかに地すべり跡の冠頂から繋がる側方リッジと考えられる. 一方,高密度3次元地震探査では分岐断層帯下部斜面の海底下構造に共役断層が発達している事が報告されており(Shiraichi et al., 2020),その原因としてリッジの沈み込みによる水平圧縮が考えられた.共役断層の2系統の走向と海底地形に見られるリニエーションの走向は一致する.これらの事から海底地すべりは南海トラフ陸側斜面の付加体内の現在の応力場を関節的に反映している可能性が考えられる.その場合,先に述べた0.35Maの流動方向の変遷は熊野灘南海トラフ付加体内の応力場の移動が考えられる.
引用文献
Kanamatsu et al., 2014, G-Cubed, https://doi.org/10.1002/2014GC005409
Kimura et al., 2011, G-Cubed, https://doi.org/10.1029/2010GC003335
Kremer et al., 2017 PEPS, https://doi.org/10.1186/s40645-017-0134-9
Sakaguchi et al., 2011, Geology, https://doi.org/10.1130/G32043.1
Shiraichi et al., 2020, EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-020-01204-3
引用文献
Kanamatsu et al., 2014, G-Cubed, https://doi.org/10.1002/2014GC005409
Kimura et al., 2011, G-Cubed, https://doi.org/10.1029/2010GC003335
Kremer et al., 2017 PEPS, https://doi.org/10.1186/s40645-017-0134-9
Sakaguchi et al., 2011, Geology, https://doi.org/10.1130/G32043.1
Shiraichi et al., 2020, EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-020-01204-3