10:15 〜 10:45
[T14-O-5] [招待講演]高レベル放射性廃棄物地層処分場の立地選定-避けるべき不確実性から見た地質-
キーワード:高レベル放射性廃棄物地層処分、立地選定、地質的不確実性
わが国では,高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分場の立地選定にあたって,地質環境の長期安定性が極めて重要視され,それ以外の地質構造についての検討が等閑視されてきたように思える.しかしながら,地質構造はHLW地層処分の安全評価にあたって基礎となるものである.しかも,HLWは人間が経験したことのない万年オーダーの長期間にわたって隔離する必要があるため,地質構造調査にあたっては人間圏への通路となりうるボーリング孔などを極力少なくすることが必要である.そのため,わが国のHLW地層処分場の立地選定にあたっては,透水性が小さく,地質構造が単純な場を選定することがぜひとも必要である(千木良,2023). 標準的と考えられている処分場のサイズ(3㎞×2㎞)の広がりのスペースを地下に置くことを実際の地質構造と比較して考えてみる.新第三紀火山岩類,新第三紀堆積岩,付加体,花崗岩,について検討した.現在文献調査の進められている寿都町や神恵内村に分布する新第三紀火山岩類は,花崗岩などと違って,一般的に不均質性が強く,また,溶岩や貫入岩の形態自体極めて不規則な場合が多い(山岸,1973;狩野,2016).そのため,処分場が形態や性状を把握しきれない複雑な地質と遭遇する可能性が高い.新第三紀堆積岩は,処分場としては透水性の低い泥質岩が望ましいが,我が国に分布する新第三紀堆積岩の泥岩の多くは砂岩との互層であり,泥質岩のみで処分場を包含できる地域はおそらく広くない.また,強く褶曲した地帯では,異常高圧や泥火山がある場合があり,これらは処分に対して好ましくない.付加体は,わが国に広く分布しており,良く研究されてきたが,それでも従来報告されていない衝上断層が多数存在すると考えるべきである.例えば,2011年台風12号によって植生が剥ぎ取られて全面露頭に近い状態になった熊野川沿いの四万十帯の調査によると,12.9㎞の間に非固結破砕帯を伴う断層が約30条認められ,その内8条は80㎝以上の厚さの破砕帯を伴っていた(Arai and Chigira, 2019).その内一つの断層破砕帯では,その上下で地下水観測が行われており,それが遮水帯となって深層崩壊が発生したことが明らかになっている(Arai and Chigira, 2018).四万十付加コンプレックスは,我が国の典型的な付加体であり,上記と同様の地質構造が我が国の付加体一般に存在すると想定することは不自然ではない.従って,2㎞×3㎞の処分場は複数の衝上断層の破砕帯に遭遇すると想定されるが,詳細な調査なしにはその位置や形態を正確に把握することは難しい.わが国の花崗岩は,従来割れ目に富むと考えられてきたが,それは花崗岩体のルーフに近い部分で著しいこと,長い構造履歴を受けていない花崗岩で,大きなバソリスの深部ならば割れ目が少なく良好な岩盤が広がっている場合があることがわかってきた.このような理由から,新第三紀火山岩類,付加体は,地質的不確実性が大きく,HLW地層処分場立地選定においては避けるべき地質体と考えるべきだと思う.一方,褶曲していない厚い新第三紀堆積岩の泥質岩や大きなバソリス深部の花崗岩は,おそらく不確実性が小さい.
引用文献
Arai, N., Chigira, M., 2018. Rain-induced deep-seated catastrophic rockslides controlled by a thrust fault and river incision in an accretionary complex in the Shimanto Belt, Japan. Island Arc, 27(3), 17. Arai, N., & Chigira, M. (2019). Distribution of gravitational slope deformation and deep-seated landslides controlled by thrust faults in the Shimanto accretionary complex. Engineering Geology, 260, 1-18. doi:10.1016/j.enggeo.2019.105236 千木良雅弘(2023).高レベル放射性廃棄物処分場の立地選定-地質的不確実性の事前回避―.近未来社,168p. 狩野謙一. (2016). 伊豆半島南部のジオガイド 地層からよみとく海底火山活動: 山と渓谷社. 山岸, 宏. (1973). 新第三紀中新世水中溶岩の一例. 火山.第2集, 18(1), 11-18. doi:10.18940/kazanc.18.1_11
引用文献
Arai, N., Chigira, M., 2018. Rain-induced deep-seated catastrophic rockslides controlled by a thrust fault and river incision in an accretionary complex in the Shimanto Belt, Japan. Island Arc, 27(3), 17. Arai, N., & Chigira, M. (2019). Distribution of gravitational slope deformation and deep-seated landslides controlled by thrust faults in the Shimanto accretionary complex. Engineering Geology, 260, 1-18. doi:10.1016/j.enggeo.2019.105236 千木良雅弘(2023).高レベル放射性廃棄物処分場の立地選定-地質的不確実性の事前回避―.近未来社,168p. 狩野謙一. (2016). 伊豆半島南部のジオガイド 地層からよみとく海底火山活動: 山と渓谷社. 山岸, 宏. (1973). 新第三紀中新世水中溶岩の一例. 火山.第2集, 18(1), 11-18. doi:10.18940/kazanc.18.1_11