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[G1-O-4] 複合的物理探査による表層型メタンハイドレート賦存形態の把握―最上トラフ酒田海丘(仮称)の例
キーワード:表層型メタンハイドレート、物理探査、LWD、地震探査、電磁探査、音響マッピング
研究の背景
経済産業省による「国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発)」では、表層型メタンハイドレート(MH)の資源量把握調査(2013〜2015年度)を経て、生産技術開発と、重点調査3海域(日本海の酒田沖、上越沖、丹後半島北方)における賦存状況調査・海底状況調査及び環境影響評価を含めた総合調査を進めている。産総研では本事業の一環として、同海域で複数年度にわたり複数の独立した手法による物理探査を実施してきた。
酒田海丘(仮称)
酒田海丘(仮称)は最上トラフ中部に位置する、比高約100 m〜200 m、長軸方向の長さ約15 kmの紡錘形の海丘である。海丘頂部に長軸に沿って長さ約1 kmの陥没地形を有する。南東側麓部には逆断層があり(Okamura et al., 1995)、日本海のインバージョンテクトニクスにより形成された地質構造の一つであると考えられる。
複合的物理探査
酒田海丘では現在までに、LWD(掘削同時検層)、AUVを用いた高分解能音響調査、船舶による広域音響調査、高分解能3次元反射法地震探査、CSEM(電磁探査)の物理探査を実施してきた。
LWD:LWDは海丘頂部の陥没地形内外3点で実施され、いずれも海底下約30 mまでの断続的な表層型MH賦存を強く示唆した(Tanahashi et al. 2017)。うち陥没地形内部では掘削開始まもなくから海底下深度約100 mで掘削を終えるまで大量の気泡の流出が見られた。
音響マッピング:海丘頂部を覆う範囲でAUVに搭載したSBP(サブボトムプロファイラー)により海底下浅部断面を得た。海丘頂部付近の海底下には広く音響空白域が見られ構造把握が困難であった。音響空白域が顕著ではない領域では海丘の形状にほぼ沿う成層構造と正断層群が認められた。成層構造は頂部の陥没地形で切断されている。
高分解能三次元地震探査:海丘全体を覆う範囲で実施した地震探査は、水平6.25 m×12.5 mのBinを設定したうえで、三次元反射ボリュームを作成した(横田ほか2022)。音響空白域が深い領域で広く認められたが、全体によく連続する成層構造が認められ、貫入体が顕著ではないことが示された。海底擬似反射面(BSR)の可能性がある強震幅領域が見られるが、往復走時の変動が大きく、海底面とは必ずしも並行しておらず、連続性も高くない。
電磁探査:CSEMは堆積物中のMHやガスの分布把握に有効である。地震探査とおよそ重複する範囲にてSUESI-Vulcanシステム(米国スクリプス海洋研究所)を、曳航高度50-100 mで用いた(小森ほか2022)。構造解析のための計算領域を水平方向100 ×100 m、鉛直方向40 mのセルで離散化した。異方性(水平比抵抗・鉛直比抵抗)を考慮した逆解析の結果、水平比抵抗に対して鉛直比抵抗の高い領域が、海丘頂部直下浅部に、海丘長軸方向の卓越性をもって推定された。
酒田海丘における表層型MHの賦存状況
CSEMにより海丘頂部直下浅部で大きな鉛直比抵抗および小さな水平比抵抗が推定されたことは、電流が鉛直方向に比べて水平方向に流れやすいことを示唆している。地震探査が示した強震幅域は空間的連続性が高くなく、MHが採取された位置・深さには現れなかった。これは強振幅域が局地的なガス溜りを示唆するものの、検出するほどの規模のMHが存在しないことを示唆する。CSEMが水平方向に連続する可能性が高い物質分布を示唆したところ、地震探査では連続性に乏しい強振幅域を示したことは、観測手法の観測対象と分解能の違いによる。LWD等が示唆した深さ方向に連続しない複数層準のMH賦存に矛盾しない。LWD実施時に噴出したバブルは、海底下に豊富なガスがあることを示す。音響空白域が音響信号の極端な減衰で現れたと考えると、海底下には気体の状態であるガスが広く存在すると解釈できる。CSEMの場合には少量の気体がバルク比抵抗に与える影響は小さいが、気体飽和度が上昇する場合影響を受ける可能性がある。頂部陥没地形は、成層構造が切れて見えることから、酒田海丘の軸部にかつて表層型MHが集積したが周辺の地層とともに崩壊し生じたと考えられるが、現在の酒田海丘には海底下に気体が存在するもののMH賦存量は比較的少なく、空間的広がりも限定的であると考えられる。
謝 辞
本研究は経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。反射法データの取得と解析、およびCSEMデータ解析の一部を株式会社地球科学総合研究所に担当いただいた。
参考文献
小森ほか, JpGU, 2022; Okamura et al., 1995, Isl. Arc; Tanahashi et al., AGU, 2017; 横田ほか, JpGU, 2022.
経済産業省による「国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発)」では、表層型メタンハイドレート(MH)の資源量把握調査(2013〜2015年度)を経て、生産技術開発と、重点調査3海域(日本海の酒田沖、上越沖、丹後半島北方)における賦存状況調査・海底状況調査及び環境影響評価を含めた総合調査を進めている。産総研では本事業の一環として、同海域で複数年度にわたり複数の独立した手法による物理探査を実施してきた。
酒田海丘(仮称)
酒田海丘(仮称)は最上トラフ中部に位置する、比高約100 m〜200 m、長軸方向の長さ約15 kmの紡錘形の海丘である。海丘頂部に長軸に沿って長さ約1 kmの陥没地形を有する。南東側麓部には逆断層があり(Okamura et al., 1995)、日本海のインバージョンテクトニクスにより形成された地質構造の一つであると考えられる。
複合的物理探査
酒田海丘では現在までに、LWD(掘削同時検層)、AUVを用いた高分解能音響調査、船舶による広域音響調査、高分解能3次元反射法地震探査、CSEM(電磁探査)の物理探査を実施してきた。
LWD:LWDは海丘頂部の陥没地形内外3点で実施され、いずれも海底下約30 mまでの断続的な表層型MH賦存を強く示唆した(Tanahashi et al. 2017)。うち陥没地形内部では掘削開始まもなくから海底下深度約100 mで掘削を終えるまで大量の気泡の流出が見られた。
音響マッピング:海丘頂部を覆う範囲でAUVに搭載したSBP(サブボトムプロファイラー)により海底下浅部断面を得た。海丘頂部付近の海底下には広く音響空白域が見られ構造把握が困難であった。音響空白域が顕著ではない領域では海丘の形状にほぼ沿う成層構造と正断層群が認められた。成層構造は頂部の陥没地形で切断されている。
高分解能三次元地震探査:海丘全体を覆う範囲で実施した地震探査は、水平6.25 m×12.5 mのBinを設定したうえで、三次元反射ボリュームを作成した(横田ほか2022)。音響空白域が深い領域で広く認められたが、全体によく連続する成層構造が認められ、貫入体が顕著ではないことが示された。海底擬似反射面(BSR)の可能性がある強震幅領域が見られるが、往復走時の変動が大きく、海底面とは必ずしも並行しておらず、連続性も高くない。
電磁探査:CSEMは堆積物中のMHやガスの分布把握に有効である。地震探査とおよそ重複する範囲にてSUESI-Vulcanシステム(米国スクリプス海洋研究所)を、曳航高度50-100 mで用いた(小森ほか2022)。構造解析のための計算領域を水平方向100 ×100 m、鉛直方向40 mのセルで離散化した。異方性(水平比抵抗・鉛直比抵抗)を考慮した逆解析の結果、水平比抵抗に対して鉛直比抵抗の高い領域が、海丘頂部直下浅部に、海丘長軸方向の卓越性をもって推定された。
酒田海丘における表層型MHの賦存状況
CSEMにより海丘頂部直下浅部で大きな鉛直比抵抗および小さな水平比抵抗が推定されたことは、電流が鉛直方向に比べて水平方向に流れやすいことを示唆している。地震探査が示した強震幅域は空間的連続性が高くなく、MHが採取された位置・深さには現れなかった。これは強振幅域が局地的なガス溜りを示唆するものの、検出するほどの規模のMHが存在しないことを示唆する。CSEMが水平方向に連続する可能性が高い物質分布を示唆したところ、地震探査では連続性に乏しい強振幅域を示したことは、観測手法の観測対象と分解能の違いによる。LWD等が示唆した深さ方向に連続しない複数層準のMH賦存に矛盾しない。LWD実施時に噴出したバブルは、海底下に豊富なガスがあることを示す。音響空白域が音響信号の極端な減衰で現れたと考えると、海底下には気体の状態であるガスが広く存在すると解釈できる。CSEMの場合には少量の気体がバルク比抵抗に与える影響は小さいが、気体飽和度が上昇する場合影響を受ける可能性がある。頂部陥没地形は、成層構造が切れて見えることから、酒田海丘の軸部にかつて表層型MHが集積したが周辺の地層とともに崩壊し生じたと考えられるが、現在の酒田海丘には海底下に気体が存在するもののMH賦存量は比較的少なく、空間的広がりも限定的であると考えられる。
謝 辞
本研究は経済産業省のメタンハイドレート研究開発事業の一部として実施した。反射法データの取得と解析、およびCSEMデータ解析の一部を株式会社地球科学総合研究所に担当いただいた。
参考文献
小森ほか, JpGU, 2022; Okamura et al., 1995, Isl. Arc; Tanahashi et al., AGU, 2017; 横田ほか, JpGU, 2022.