[T1-P-3] (entry) Evaluation of the Effect of Humidity on Elementary Frictional Processes of Quartz
摩擦凝着説によれば、摩擦力は摩擦表面の微小な凸部の接触面積に比例する。岩石の摩擦実験では、一定の垂直応力下で静止摩擦が保持時間の対数に比例して増加するlog tヒーリングという現象が報告されている(Dieterich, 1972)。また、この場合、真実接触部の面積も負荷保持時間の対数に比例して増大することが知られている。これまでの研究では、log tヒーリングが湿度依存性を持つといういくつかの実験報告(例えばFrye and Marone, 2002)から、真実接触面積の増大速度も湿度依存性を持つと考えられていた。しかし最近では、石英のナノインデンテーション実験結果(Thom et al., 2018)に基づいて、真実接触面積の増大速度は湿度による影響を受けない可能性が議論されている。一方で、尾上・堤(2020)による研究では、単結晶石英を用いた摩擦実験において、湿度20%以下の低湿度領域においてlog tヒーリングの湿度依存性が最も顕著に現れることが示されている。このように、摩擦強度のヒーリング現象が湿度依存性を示す要因は未解明である。本研究では、ヒーリングの湿度依存性の詳細を検討することを目的として、特に低湿度条件下での人工水晶を用いたナノインデンテーション試験とSHS試験を実施した。ナノインデンテーション試験は、尾上らが使用した人工水晶を対象とした低湿度条件(5-20%RH、室温)で実施した。試験には汎用のナノインデンテーション試験機(DUH-211S、Shimadzu)を使用し、試料を覆うアクリルチャンバー内の湿度をドライエア発生装置と湿度管理装置で制御した。複数の湿度条件・負荷保持時間においてナノインデンテーション試験を行い、記録された荷重-深さデータから押し込み硬さを算出し、実際の接触面積の推定を試みた。SHS試験は、同人工水晶から加工・整形した円筒状試料を用いて複数の湿度条件で実施した。実験では,あらかじめ垂直応力1.5 MPa, すべり速度105 mm/sの条件において42 mのすべりを与え、摩擦表面にガウジが生成した状態をSHS実験の摩擦面の初期条件とした。尾上・堤(2020)のSHS実験では、負荷保持中に剪断応力が完全に除荷される状態であったが、本実験では負荷保持中に剪断応力が維持されるように実験手法を改善した。
ナノインデンテーション試験の結果について、除荷曲線の傾きから理論的に推定した接触面積の値には大きなばらつきがあり、有意な結果を得ることはできなかった。一方、負荷保持中の深さの推移データからは、湿度0-30%RHの条件では真実接触面積の時間増加が湿度に依存しないことが強く示唆され、これは先行研究と矛盾しない結果であった。SHS試験結果については、先行研究の結果と同様に、すべり再開時の摩擦について湿度依存のヒーリングが観察された。これらの結果は、真実接触面積の増大に関係しないヒーリングの湿度依存性のメカニズムが存在することを強く示唆する。今回のSHS実験では、一般的なSHS実験で報告されている負荷保持中の摩擦の減少が確認できたため、今後この結果を用いて各種摩擦構成則パラメータの湿度依存性を検討することで、ヒーリングが湿度依存性を示すメカニズムを考察する予定である。
今回見られた接触面積のばらつきの原因として、石英への負荷保持実験において押し込み硬さの計算に用いられる複合弾性率が熱ドリフトの影響を受ける可能性があることが疑われた。そのため、Liu et al.(2014)の手法に基づき、複合弾性率の値を固定して接触面積の推定を試みた。しかし、データの改善は見られなかった。追試を行った結果、試験間の時間を空けない連続実験を行った場合に、不安定な深さ推移が観察されることが多いことがわかった。これらの挙動が試験機の特性に起因するのか、石英の物性の均質性に関連しているのかについては、さらなる検討が必要である。
文献
Dieterich, J. H. (1972). JGR, 77(20), 3690–3697. https://doi.org/10.1029/JB077i020p03690
Frye, K. M., Marone, C. (2002). JGR, 107(B11), 2309. https://doi.org/10.1029/2001JB000654
Thom, C. A. et al. (2018). GRL, 45(24). https://doi.org/10.1029/2018GL080561
尾上裕子, 堤 昭人 (2020). JpGU-AGU Joint Meeting 2020, 講演要旨 SSS15-11.
Liu, Y. et al. (2014). Scripta Materialia, 77, 5–8. https://doi.org/10.1016/J.SCRIPTAMAT.2013.12.022
ナノインデンテーション試験の結果について、除荷曲線の傾きから理論的に推定した接触面積の値には大きなばらつきがあり、有意な結果を得ることはできなかった。一方、負荷保持中の深さの推移データからは、湿度0-30%RHの条件では真実接触面積の時間増加が湿度に依存しないことが強く示唆され、これは先行研究と矛盾しない結果であった。SHS試験結果については、先行研究の結果と同様に、すべり再開時の摩擦について湿度依存のヒーリングが観察された。これらの結果は、真実接触面積の増大に関係しないヒーリングの湿度依存性のメカニズムが存在することを強く示唆する。今回のSHS実験では、一般的なSHS実験で報告されている負荷保持中の摩擦の減少が確認できたため、今後この結果を用いて各種摩擦構成則パラメータの湿度依存性を検討することで、ヒーリングが湿度依存性を示すメカニズムを考察する予定である。
今回見られた接触面積のばらつきの原因として、石英への負荷保持実験において押し込み硬さの計算に用いられる複合弾性率が熱ドリフトの影響を受ける可能性があることが疑われた。そのため、Liu et al.(2014)の手法に基づき、複合弾性率の値を固定して接触面積の推定を試みた。しかし、データの改善は見られなかった。追試を行った結果、試験間の時間を空けない連続実験を行った場合に、不安定な深さ推移が観察されることが多いことがわかった。これらの挙動が試験機の特性に起因するのか、石英の物性の均質性に関連しているのかについては、さらなる検討が必要である。
文献
Dieterich, J. H. (1972). JGR, 77(20), 3690–3697. https://doi.org/10.1029/JB077i020p03690
Frye, K. M., Marone, C. (2002). JGR, 107(B11), 2309. https://doi.org/10.1029/2001JB000654
Thom, C. A. et al. (2018). GRL, 45(24). https://doi.org/10.1029/2018GL080561
尾上裕子, 堤 昭人 (2020). JpGU-AGU Joint Meeting 2020, 講演要旨 SSS15-11.
Liu, Y. et al. (2014). Scripta Materialia, 77, 5–8. https://doi.org/10.1016/J.SCRIPTAMAT.2013.12.022