[T1-P-5] (エントリー)五島列島久賀島に分布する花崗岩類の地球化学的特徴
キーワード:花崗岩、五島列島、西南日本
[はじめに]
五島列島は長崎県の西部に位置し、日本海の南端と東シナ海の北端を結ぶ対馬海峡に位置しており、北から中通島、若松島、奈留島、久賀島、福江島の5つの主要な島からなる。五島列島の地質は中新世初期-中期の五島層群堆積岩類や凝灰岩が大部分であり、そこに花崗岩類が貫入している。中でも久賀島はその大部分に花崗岩類が分布している。五島花崗岩類はフィッション・トラック年代測定法によりおよそ14-15 Maに形成されたと報告されている1)。これはアジア大陸から日本列島が分離した年代と近くこれらの花崗岩類の成因解析は当時の地質的な環境を推察する手段として注目されているが、それらの地球化学的研究は未だ十分になされていない。そこで本研究では久賀島に分布する花崗岩類に着目し、全岩化学組成分析から花崗岩類の地球化学的特徴について考察した。
[地質概要]
久賀島が属する福江地域に分布する新第三紀火成岩類は、主に福江流紋岩、五島花崗岩類、蠑螺島流紋岩、椛島火山岩類からなる2)。これらの火成岩類の伸長方向は北東-南西で、五島列島の配列とほぼ並行である。五島花崗岩類は花崗閃緑岩、花崗閃緑斑岩、花崗岩からなる。五島花崗岩類のうち花崗閃緑岩は久賀島北部のみに分布しており、花崗閃緑斑岩の多くは久賀島の南部から福江島の北部にかけて貫入している4)。Shin et al. (2009)3)によれば、対馬諸島で確認された中期中新世の花崗岩類には、優白質花崗岩と灰色花崗岩、細粒暗色包有岩がある。これらは苦鉄質マグマと珪長質マグマが混合・混交して形成されたとされている。Koga (2019)4)は五島列島の花崗岩類についてSiO₂に対するFeOとMgOの比により2種に分類できるとした。SiO₂の増加にともないFeO/MgOが直線的に増加するものをGDグループ、SiO₂が一定で広いFeO/MgOが広い範囲をとるものをHFGグループとした。GDグループはマントル物質に起因して生成されたと考えられ、HFGグループは高温マントルの上昇による地殻の部分溶融に起因するとされた。
[研究]
久賀島に分布する花崗岩類について、主成分元素、微量元素、希土類元素の分析を行った。主成分、微量成分元素については溶融ガラスビード法により波長分散型蛍光X線分析装置で測定を行い、希土類元素については誘導結合プラズマ質量分析法で測定を行った。その結果今回分析した花崗岩類の全てのサンプルがHFGグループに属した。また対馬海峡に分布する対馬花崗岩類と主成分元素及び微量元素を比較すると多くの元素においてハーカー図上で同じようなトレンドを示した。しかしMnOやNa₂Oの含有量は五島花崗岩類よりも対馬花崗岩類の方が低く、K₂OやBa、Thの含有量では五島花崗岩類よりも対馬花崗岩類の方が高かった。またZrでは五島花崗岩類はSiO2の増加に伴い上昇したのに対し、対馬花崗岩類ではSiO2の増加に伴い減少した。これは五島花崗岩類の起源マグマが常にZrに不飽和であったため分化過程でZrが増加し、対馬花崗岩類では起源マグマが初期からZrに飽和しており、ジルコンを晶出しながら結晶化したため減少したと考えられる5)。P₂O₅では両地域の花崗岩類がSiO₂の増加に伴い大きく減少しており、燐灰石の分別が起こったと考えられる6)。またSiO₂の範囲は五島花崗岩類のGDグループと対馬花崗岩類の灰色花崗岩が近く、五島花崗岩類のHFGグループと対馬花崗岩類の優白質花崗岩が近いことが分かった。しかし、対馬花崗岩類はFeO/MgOとSiO₂に相関は見られなかった。CIコンドライトで規格化した希土類元素パターン図についても五島花崗岩類と対馬花崗岩類では有意な差は見られず、ほぼすべてのサンプルで軽希土類元素に富み、重希土類元素では水平なトレンドであった。
[引用文献]
1) 宮地六美; 比較社会文化. 1995, 1, 61-65.
2) 河田清雄・鎌田泰彦・松井和典; 地域地質研究報告5万分の1地質図幅, 1994, 鹿児島(15)第8号
3) Shin, K.-C.; Kurosawa, M.; Anma, R.; Nakano, T.; Resour. Geol. 2009, 59, 25–50.
4) Koga, K.; Tsuboi, M.; Minerals. 2021, 11(3), 248.
5) Ishihara S.; 資源地質. 2014, 64(3), 127-132.
6) Sugii, K; Sawada, Y.; Geoscience Rept. Shimane Univ. 1999, 18, 69-84.
五島列島は長崎県の西部に位置し、日本海の南端と東シナ海の北端を結ぶ対馬海峡に位置しており、北から中通島、若松島、奈留島、久賀島、福江島の5つの主要な島からなる。五島列島の地質は中新世初期-中期の五島層群堆積岩類や凝灰岩が大部分であり、そこに花崗岩類が貫入している。中でも久賀島はその大部分に花崗岩類が分布している。五島花崗岩類はフィッション・トラック年代測定法によりおよそ14-15 Maに形成されたと報告されている1)。これはアジア大陸から日本列島が分離した年代と近くこれらの花崗岩類の成因解析は当時の地質的な環境を推察する手段として注目されているが、それらの地球化学的研究は未だ十分になされていない。そこで本研究では久賀島に分布する花崗岩類に着目し、全岩化学組成分析から花崗岩類の地球化学的特徴について考察した。
[地質概要]
久賀島が属する福江地域に分布する新第三紀火成岩類は、主に福江流紋岩、五島花崗岩類、蠑螺島流紋岩、椛島火山岩類からなる2)。これらの火成岩類の伸長方向は北東-南西で、五島列島の配列とほぼ並行である。五島花崗岩類は花崗閃緑岩、花崗閃緑斑岩、花崗岩からなる。五島花崗岩類のうち花崗閃緑岩は久賀島北部のみに分布しており、花崗閃緑斑岩の多くは久賀島の南部から福江島の北部にかけて貫入している4)。Shin et al. (2009)3)によれば、対馬諸島で確認された中期中新世の花崗岩類には、優白質花崗岩と灰色花崗岩、細粒暗色包有岩がある。これらは苦鉄質マグマと珪長質マグマが混合・混交して形成されたとされている。Koga (2019)4)は五島列島の花崗岩類についてSiO₂に対するFeOとMgOの比により2種に分類できるとした。SiO₂の増加にともないFeO/MgOが直線的に増加するものをGDグループ、SiO₂が一定で広いFeO/MgOが広い範囲をとるものをHFGグループとした。GDグループはマントル物質に起因して生成されたと考えられ、HFGグループは高温マントルの上昇による地殻の部分溶融に起因するとされた。
[研究]
久賀島に分布する花崗岩類について、主成分元素、微量元素、希土類元素の分析を行った。主成分、微量成分元素については溶融ガラスビード法により波長分散型蛍光X線分析装置で測定を行い、希土類元素については誘導結合プラズマ質量分析法で測定を行った。その結果今回分析した花崗岩類の全てのサンプルがHFGグループに属した。また対馬海峡に分布する対馬花崗岩類と主成分元素及び微量元素を比較すると多くの元素においてハーカー図上で同じようなトレンドを示した。しかしMnOやNa₂Oの含有量は五島花崗岩類よりも対馬花崗岩類の方が低く、K₂OやBa、Thの含有量では五島花崗岩類よりも対馬花崗岩類の方が高かった。またZrでは五島花崗岩類はSiO2の増加に伴い上昇したのに対し、対馬花崗岩類ではSiO2の増加に伴い減少した。これは五島花崗岩類の起源マグマが常にZrに不飽和であったため分化過程でZrが増加し、対馬花崗岩類では起源マグマが初期からZrに飽和しており、ジルコンを晶出しながら結晶化したため減少したと考えられる5)。P₂O₅では両地域の花崗岩類がSiO₂の増加に伴い大きく減少しており、燐灰石の分別が起こったと考えられる6)。またSiO₂の範囲は五島花崗岩類のGDグループと対馬花崗岩類の灰色花崗岩が近く、五島花崗岩類のHFGグループと対馬花崗岩類の優白質花崗岩が近いことが分かった。しかし、対馬花崗岩類はFeO/MgOとSiO₂に相関は見られなかった。CIコンドライトで規格化した希土類元素パターン図についても五島花崗岩類と対馬花崗岩類では有意な差は見られず、ほぼすべてのサンプルで軽希土類元素に富み、重希土類元素では水平なトレンドであった。
[引用文献]
1) 宮地六美; 比較社会文化. 1995, 1, 61-65.
2) 河田清雄・鎌田泰彦・松井和典; 地域地質研究報告5万分の1地質図幅, 1994, 鹿児島(15)第8号
3) Shin, K.-C.; Kurosawa, M.; Anma, R.; Nakano, T.; Resour. Geol. 2009, 59, 25–50.
4) Koga, K.; Tsuboi, M.; Minerals. 2021, 11(3), 248.
5) Ishihara S.; 資源地質. 2014, 64(3), 127-132.
6) Sugii, K; Sawada, Y.; Geoscience Rept. Shimane Univ. 1999, 18, 69-84.