[G-P-30] 新潟県糸魚川市小滝地域に分布するペルム紀付加体姫川コンプレックスの地質形成史
キーワード:ペルム紀、付加体、放散虫、糸魚川、新潟
はじめに: 新潟県糸魚川市小滝地域にはペルム紀付加体として,石灰岩と玄武岩質岩からなる青海コンプレックス(以下,青海C.)とチャートや砂岩などからなる姫川コンプレックス(以下,姫川C.)が北西-南東方向に細長く分布しており,両者はともに秋吉帯に帰属すると考えられている(長森ほか,2010).河合・竹内(2001)は虫川上流域に分布する姫川C.の黒褐色珪質泥岩中のマンガン炭酸塩スフェリュールからはAlbaillella asymmetrica Ishiga & Imotoなどの,黒色珪質泥岩からはFollicucullus porrectus Rudenko やParafollicucullus monacanthus (Ishiga & Imoto) などのペルム紀中期を示す放散虫化石を報告している.しかし,虫川上流域以外から放散虫化石の報告はなく,依然として姫川C.については化石の産出データに乏しい.本研究では,姫川および小滝川流域に分布する姫川C.において地質調査を行い,地質図および地質断面図の作成を行った.また,チャートや泥岩などから放散虫化石の抽出を試みた.これらの結果をもとに,姫川コンプレックスの形成史について考察する.
岩相区分: 本研究では長森ほか(2010)のユニット区分を再定義し,姫川C.を西部ユニット(以下,西部U.)と東部ユニット(以下,東部U.)に区分した.西部U.は下位からチャート,珪質泥岩緑色凝灰岩互層,砂岩・泥岩からなる見かけのチャート–砕屑岩シーケンス(以下,CCS)を示す.東部U.は砂岩泥岩互層の破断~混在相を主体として,層厚数100 m規模のチャート岩体を含む.また,本調査地域に分布する弱変形の泥岩・砂岩・礫岩からなる地層を新たに菅沼層と仮称する.菅沼層の泥岩は塊状および層状で,細粒砂岩の薄層を挟む.砂岩は中粒~粗粒で数 mm~数 cmの泥岩礫を多量に含む.礫岩は細~中礫で泥岩やチャート,石灰岩の角礫を多く含む.
地質構造: 姫川流域に分布する姫川C.の内,西部U.は北西-南東の走向をもち,南西に低~中角で傾斜する.東部U.は砂岩泥岩互層とチャート岩体内部の構造が異なる.砂岩泥岩互層は北西-南東の走向をもち,南西および北東に中~高角で傾斜する.チャート岩体はアザキリ沢周辺のものは北西-南東の走向をもち,南西に低~中角で傾斜,菅沼集落周辺のものは南北の走向をもち,西および東に低角で傾斜する.菅沼層は北西-南東の走向をもち,南西に中~高角で傾斜する.青海C.と西部U.,東部U.中の砂岩泥岩互層とチャート岩体の境界は低~中角断層によって,西部U.および東部U.と蛇紋岩,西部U.および東部U.と菅沼層は高角断層によってそれぞれ境されている.
放散虫化石: 岡集落北方の沢に分布する西部U.の珪質泥岩からはAlbaillella sinuata Ishiga & WataseやParafollicucullus sp. cf. P. fusiformis Holdsworth & Jonesなどが,菅沼集落南方の沢に分布する東部U.の赤色チャートからはPseudotormentus kamigoriensis De Wever & CaridroitやLatentifistula sp.などの産出が新たに確認された.これらの群集のうち,西部U.の珪質泥岩から産出した放散虫群集は,Xiao et al. (2018)によるUT7(ペルム紀中期Roadian)を特徴づける.東部U.の赤色チャートから産出した放散虫化石は,年代を絞り込むことはできないが,ペルム紀を特徴づける複数の種からなる.
地質形成史: 姫川C.の西部U.は見かけのCCSを示し,珪質泥岩からペルム紀中期Roadianの放散虫群集が産出することから,ペルム紀中期以降に形成された付加体であると考えられる.一方,姫川C.の東部U.はチャート岩体からペルム紀の放散虫が産出することから,東部U.はペルム紀以降に形成された付加体であると考えられる.しかし,東部U.の砂岩泥岩互層からは年代決定に有効な化石が産出していないため,チャート岩体がいつ取り込まれたかについては不明である.菅沼層は姫川C.の西部U.と東部U.両方の分布域に見られることや変形度が周囲の付加体より弱いこと,礫岩にチャートや石灰岩の礫が多量に含まれることから,元々は付加体を覆う被覆層であったと考えられる.菅沼層の礫岩中には蛇紋岩礫が含まれないことから,姫川C.の西部U.と東部U.の境界に見られる蛇紋岩体は,菅沼層形成後に併入したと考えられる.
文献: 河合・竹内, 2001, NOM特別号, no.12, 23–32; 長森ほか, 2010, 小滝図幅, 産総研地質調査総合センター, 130p; Xiao et al., 2018, Earth Sci. Rev., 179, 168–206
岩相区分: 本研究では長森ほか(2010)のユニット区分を再定義し,姫川C.を西部ユニット(以下,西部U.)と東部ユニット(以下,東部U.)に区分した.西部U.は下位からチャート,珪質泥岩緑色凝灰岩互層,砂岩・泥岩からなる見かけのチャート–砕屑岩シーケンス(以下,CCS)を示す.東部U.は砂岩泥岩互層の破断~混在相を主体として,層厚数100 m規模のチャート岩体を含む.また,本調査地域に分布する弱変形の泥岩・砂岩・礫岩からなる地層を新たに菅沼層と仮称する.菅沼層の泥岩は塊状および層状で,細粒砂岩の薄層を挟む.砂岩は中粒~粗粒で数 mm~数 cmの泥岩礫を多量に含む.礫岩は細~中礫で泥岩やチャート,石灰岩の角礫を多く含む.
地質構造: 姫川流域に分布する姫川C.の内,西部U.は北西-南東の走向をもち,南西に低~中角で傾斜する.東部U.は砂岩泥岩互層とチャート岩体内部の構造が異なる.砂岩泥岩互層は北西-南東の走向をもち,南西および北東に中~高角で傾斜する.チャート岩体はアザキリ沢周辺のものは北西-南東の走向をもち,南西に低~中角で傾斜,菅沼集落周辺のものは南北の走向をもち,西および東に低角で傾斜する.菅沼層は北西-南東の走向をもち,南西に中~高角で傾斜する.青海C.と西部U.,東部U.中の砂岩泥岩互層とチャート岩体の境界は低~中角断層によって,西部U.および東部U.と蛇紋岩,西部U.および東部U.と菅沼層は高角断層によってそれぞれ境されている.
放散虫化石: 岡集落北方の沢に分布する西部U.の珪質泥岩からはAlbaillella sinuata Ishiga & WataseやParafollicucullus sp. cf. P. fusiformis Holdsworth & Jonesなどが,菅沼集落南方の沢に分布する東部U.の赤色チャートからはPseudotormentus kamigoriensis De Wever & CaridroitやLatentifistula sp.などの産出が新たに確認された.これらの群集のうち,西部U.の珪質泥岩から産出した放散虫群集は,Xiao et al. (2018)によるUT7(ペルム紀中期Roadian)を特徴づける.東部U.の赤色チャートから産出した放散虫化石は,年代を絞り込むことはできないが,ペルム紀を特徴づける複数の種からなる.
地質形成史: 姫川C.の西部U.は見かけのCCSを示し,珪質泥岩からペルム紀中期Roadianの放散虫群集が産出することから,ペルム紀中期以降に形成された付加体であると考えられる.一方,姫川C.の東部U.はチャート岩体からペルム紀の放散虫が産出することから,東部U.はペルム紀以降に形成された付加体であると考えられる.しかし,東部U.の砂岩泥岩互層からは年代決定に有効な化石が産出していないため,チャート岩体がいつ取り込まれたかについては不明である.菅沼層は姫川C.の西部U.と東部U.両方の分布域に見られることや変形度が周囲の付加体より弱いこと,礫岩にチャートや石灰岩の礫が多量に含まれることから,元々は付加体を覆う被覆層であったと考えられる.菅沼層の礫岩中には蛇紋岩礫が含まれないことから,姫川C.の西部U.と東部U.の境界に見られる蛇紋岩体は,菅沼層形成後に併入したと考えられる.
文献: 河合・竹内, 2001, NOM特別号, no.12, 23–32; 長森ほか, 2010, 小滝図幅, 産総研地質調査総合センター, 130p; Xiao et al., 2018, Earth Sci. Rev., 179, 168–206