11:15 〜 11:30
[T13-O-8] 相模湾プレート境界域の堆積場と冷湧水から推定した断層活動
キーワード:関東地震、活断層、タービダイト、化学合成生物群集
相模湾のプレート境界は北西-南東方向に延びており,フィリピン海プレートの北西進に対して大きな斜め沈み込み,あるいは横ずれ変位の境界となっている.一方,地下構造は一般的な付加体と類似の構造が報告されている.相模湾を東西に横断する大規模反射法地震探査では,プレート境界断層とそこから派生する分岐断層がイメージングされている(佐藤ほか,2010,科学).比較的浅部を対象とした反射断面においても,陸側傾斜の複数の断層によってトラフ底の堆積層が変形する様子が捉えられている(Yamashita et al.,2013, JAMSTEC-R; No et al., 2014,EPS).また,Misawa et al. (2020, GeoMarine Letters)は,断層関連褶曲や斜面堆積盆のgrowth strataの存在からオフスクレーピングによる付加の進行を報告するとともに,伊豆-小笠原の高まりの北西進の付加変形への影響を指摘している.以上のような構造の報告に対して,断層の活動度など時間軸の入った報告は乏しい.本研究は高解像の浅部地下構造断面と堆積場の変化を記録した表層採泥試料から最近の断層活動を捉えることを目的とした.
相模湾東部には北西-南東方向に海丘群(沖ノ山堆列)が並んでいる.その西側の麓には相模構造線が推定され沈み込み帯の構造境界と解釈されてきた(木村,1973,科学).調査地点はこれらの海丘群の1つである三浦海丘の西斜面域で,海底付近に達する断層の存在が反射断面から推定されている(大河内,1990,地学雑誌).本研究では浅部の詳細な構造を明らかにするため,無人探査機にサブボトムプロファイラー(以下SBP)の音源と受信機を搭載し,海底近傍で発振・受信することで複雑な地形の所でも良好な反射断面を得ることができた.三浦海丘の西側斜面を横断するSBP探査では,白鳳丸KH-10-3次航海(Misawa et al., 2020, GeoMarine Letters)とKH-15-2次航海にて,西側に傾斜し海底まで達する断層を確認した.これより西側には海底に達する断層は認められないため前縁断層に当たると言える.また,KH-16-5次航海では無人探査機を用いて断層上盤斜面でピストンコア試料を採取した.さらに上記の断層の西側のプロトスラスト帯に当たる平坦面の2ヶ所でピストンコア試料を得た.KH-19-5次航海の無人探査機による海底ビデオ観察では,斜面基部に沿ったシロウリガイコロニーの存在とシンカイヒバリガイの生息から活発なメタン湧水が推定された.
断層上盤から採取した試料は,下位より3つのユニットに分けることができる:1)凝灰質の細〜中粒砂の薄層が10 cm程度の間隔で挟まる暗緑色のシルト層,2)中粒砂と泥岩の細礫,貝殻片からなる粗粒層とシルトの薄層の互層.下の4層は厚さ5 cm前後,上の2層は厚さ20 cm前後で最上部の層は合弁の貝殻を含む,3)貝殻片を含まない泥岩の細礫勝ちな部分とシルト質の部分の互層.これらの層相と現在の海底の堆積場を比較すると以下のような解釈ができる.断層上盤コア試料の中位ユニットの粗粒層を崖錐堆積物と解釈すると,最上部の合弁の貝殻を含む粗粒層が現在斜面基部に見られる貝コロニーに対応する.中位ユニットの粗粒層の厚さは概ね上方へ増加しており,下盤の堆積場が断層運動によって崖へ接近するのと矛盾しない.上位ユニットは中位ユニットと同じく泥岩の細礫を多く含むが貝殻片は認められない.また,粗粒層とシルトの境界が不明瞭で複雑な形状を示す.このことから上位層は断層上盤斜面を被覆する堆積物と考えられ,中位ユニットから上位ユニットへの堆積相の変化は断層下盤側から上盤側への堆積場の推移を示していると解釈できる.
断層上盤の下位ユニットの層相は,断層下盤側の平坦面から得た2本のコア試料と似ており細粒タービダイトである.これら上盤と下盤で同年代に堆積したタービダイトの深度を比較すれば断層の変位量を求めることができるが,平坦面から得たコアは上盤の年代までの深さの試料が得られていない.平坦面の試料はほぼ一定の堆積速度を示すことから,上盤の年代(約1.65万年前)に対応する層準の深度を外挿で求めたところ,両者は断層を境に垂直方向で約15メートル変位している.合弁の貝を含んだ粗粒層の上下の地層の年代(約1.1万年前と約1.5万年前)をもとに,上記粗粒層の堆積が終わって以降現在まで変位が累積したと仮定すると断層の活動度はA級と推定される.1923年の大正関東地震をはじめ相模トラフ沿いの巨大地震時の海底変動に関わる情報は限られており,その充実には海底堆積物を用いた時間軸の入ったデータの蓄積が必要である.
相模湾東部には北西-南東方向に海丘群(沖ノ山堆列)が並んでいる.その西側の麓には相模構造線が推定され沈み込み帯の構造境界と解釈されてきた(木村,1973,科学).調査地点はこれらの海丘群の1つである三浦海丘の西斜面域で,海底付近に達する断層の存在が反射断面から推定されている(大河内,1990,地学雑誌).本研究では浅部の詳細な構造を明らかにするため,無人探査機にサブボトムプロファイラー(以下SBP)の音源と受信機を搭載し,海底近傍で発振・受信することで複雑な地形の所でも良好な反射断面を得ることができた.三浦海丘の西側斜面を横断するSBP探査では,白鳳丸KH-10-3次航海(Misawa et al., 2020, GeoMarine Letters)とKH-15-2次航海にて,西側に傾斜し海底まで達する断層を確認した.これより西側には海底に達する断層は認められないため前縁断層に当たると言える.また,KH-16-5次航海では無人探査機を用いて断層上盤斜面でピストンコア試料を採取した.さらに上記の断層の西側のプロトスラスト帯に当たる平坦面の2ヶ所でピストンコア試料を得た.KH-19-5次航海の無人探査機による海底ビデオ観察では,斜面基部に沿ったシロウリガイコロニーの存在とシンカイヒバリガイの生息から活発なメタン湧水が推定された.
断層上盤から採取した試料は,下位より3つのユニットに分けることができる:1)凝灰質の細〜中粒砂の薄層が10 cm程度の間隔で挟まる暗緑色のシルト層,2)中粒砂と泥岩の細礫,貝殻片からなる粗粒層とシルトの薄層の互層.下の4層は厚さ5 cm前後,上の2層は厚さ20 cm前後で最上部の層は合弁の貝殻を含む,3)貝殻片を含まない泥岩の細礫勝ちな部分とシルト質の部分の互層.これらの層相と現在の海底の堆積場を比較すると以下のような解釈ができる.断層上盤コア試料の中位ユニットの粗粒層を崖錐堆積物と解釈すると,最上部の合弁の貝殻を含む粗粒層が現在斜面基部に見られる貝コロニーに対応する.中位ユニットの粗粒層の厚さは概ね上方へ増加しており,下盤の堆積場が断層運動によって崖へ接近するのと矛盾しない.上位ユニットは中位ユニットと同じく泥岩の細礫を多く含むが貝殻片は認められない.また,粗粒層とシルトの境界が不明瞭で複雑な形状を示す.このことから上位層は断層上盤斜面を被覆する堆積物と考えられ,中位ユニットから上位ユニットへの堆積相の変化は断層下盤側から上盤側への堆積場の推移を示していると解釈できる.
断層上盤の下位ユニットの層相は,断層下盤側の平坦面から得た2本のコア試料と似ており細粒タービダイトである.これら上盤と下盤で同年代に堆積したタービダイトの深度を比較すれば断層の変位量を求めることができるが,平坦面から得たコアは上盤の年代までの深さの試料が得られていない.平坦面の試料はほぼ一定の堆積速度を示すことから,上盤の年代(約1.65万年前)に対応する層準の深度を外挿で求めたところ,両者は断層を境に垂直方向で約15メートル変位している.合弁の貝を含んだ粗粒層の上下の地層の年代(約1.1万年前と約1.5万年前)をもとに,上記粗粒層の堆積が終わって以降現在まで変位が累積したと仮定すると断層の活動度はA級と推定される.1923年の大正関東地震をはじめ相模トラフ沿いの巨大地震時の海底変動に関わる情報は限られており,その充実には海底堆積物を用いた時間軸の入ったデータの蓄積が必要である.