日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T5[トピック]テクトニクス

[3oral106-11] T5[トピック]テクトニクス

2023年9月19日(火) 10:15 〜 12:00 口頭第1会場 (4共11:吉田南4号館)

座長:羽地 俊樹(産業技術総合研究所)、藤内 智士(高知大学)

11:15 〜 11:30

[T5-O-4] イザナギ-太平洋海嶺の接近・沈み込みに伴う発達史:紀伊半島・四国に分布する四万十帯付加体中の礫岩

*志村 侑亮1、原 英俊1、常盤 哲也2、中村 佳博1、淺原 良浩3 (1. 産総研地質調査総合センター、2. 信州大学、3. 名古屋大学)

キーワード:海嶺沈み込み、白亜紀、古第三紀、沈み込み帯

【はじめに】
 近年,運動力学モデルから推定されるプレート沈み込み史と地震波トモグラフィーの解析から推定される現在のマントル構造の比較により,60~50 Ma頃,東アジア東縁部へイザナギ-太平洋海嶺が沈み込んだことが提案された(Seton et al., 2015).このことは,東アジア東縁部におけるマグマ活動や前弧海盆・付加ウェッジ成長の停止(例えば,Wu & Wu, 2019),および構造境界断層の運動センスの転換(Kubota et al., 2020)など,その後の地質学的証拠からも支持された.一方,白亜紀から古第三紀にかけて,イザナギ-太平洋海嶺が東アジア東縁部に接近し最終的に沈み込むことにより,沈み込み帯の特に前弧域でどのようなテクトニックプロセスが生じていたのかについては議論されていない.
 四万十帯は,白亜紀~新第三紀の付加体からなり,イザナギ-太平洋海嶺の接近から沈み込みまでの発達史を解明する上で重要な役割を担う.古第三紀付加体中には凝灰岩や花崗岩類,および高圧型変成岩類などを巨礫として含む礫岩が認められ,紀伊半島では丹生ノ川礫岩(谷口ほか, 2012),四国では大山岬礫岩(馬渕, 1995)と呼ばれている.この礫岩は,海嶺沈み込み時期にあたる古第三紀に形成されたと考えられているが,礫岩の堆積時期や礫の起源,および成因についてほとんど検証されていない.これらを解決するため,本研究では丹生ノ川礫岩と大山岬礫岩を対象に,野外調査・ジルコンU–Pb年代測定・白雲母K–Ar年代測定・炭質物ラマン分光分析を実施した.
【結果】
 丹生ノ川礫岩については,挟在する砂岩層と花崗岩礫を対象にジルコンのU–Pb年代を測定した.砂岩層から得られたU–Pb年代は,最若粒子として66.5 Ma,最若クラスターとして68.2 Maを示した.既存の凝灰質岩から得られた年代も含めると(63.0 Ma; 常盤ほか, 2016),本礫岩の堆積時期は古第三紀暁新世もしくはそれ以降と推定できる.花崗岩礫から得られたU–Pb年代は,加重平均値として86.3~78.8 Maを示し,白亜紀のサントニアン期~カンパニアン期に形成したといえる.
 大山岬礫岩については,挟在する砂岩層,および火山礫凝灰岩と砂質片岩の礫を対象にジルコンのU–Pb年代を測定した.砂質片岩については白雲母K–Ar年代測定と炭質物ラマン分光分析も実施した.砂岩層は,最若粒子として59.2 Ma,最若クラスターとして64.4 Maの年代を示したため,本礫岩の堆積時期は暁新世もしくはそれ以降と推定できる.火山礫凝灰岩礫は,95.2 Maの加重平均値を示し,白亜紀のセノマニアン期に形成したといえる.砂質片岩は,90.3~82.2 Maの最若粒子,91.3~87.6 Maの最若クラスターのU–Pb年代を示し,67.9 MaのK–Ar年代を示した.また,ラマン分光分析の結果,73.8~66.6 cm-1のD1半値幅が得られ,Kaneki & Kouketsu (2022)に従い温度換算することで316~333 °Cの変成ピーク温度を得た.すなわち,砂質片岩は白亜紀のチューロニアン期~カンパニアン期頃に堆積し,マーストリヒチアン期に~330 °C程度の変成作用を経験したと推定できる.
【議論】
 丹生ノ川礫岩に含まれる花崗岩礫は領家帯の花崗岩類を,大山岬礫岩に含まれる砂質片岩は三波川帯の高圧型変成岩類を起源とすることがわかった.また,本礫岩が堆積した時期(暁新世もしくはそれ以降)は,イザナギ-太平洋海嶺が沈み込んだ時期と概ね一致する.すなわち,イザナギ-太平洋海嶺が沈み込むことで東アジア東縁の弧-前弧域で隆起・削剥プロセスが生じ,丹生ノ川礫岩や大山岬礫岩が形成したと考えられる.
 従来,三波川帯の高圧型変成岩類は始新世中期頃に陸上へ露出したと考えられてきたが(楠橋ほか, 2022),本研究の結果は高圧型変成岩類の少なくとも一部は始新世中期よりも前に露出していたことを示唆している.
【文献】
Kaneki & Kouketsu, 2022, Isl. Arc, 31, e12467; Kubota et al., 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372; 楠橋ほか, 2022, 地質雑, 128, 411–426; 馬渕, 1995, 島根大学地質学研究報告, 14, 21–35; Seton et al., 2015, Geophys. Res. Lett., 42, 1732–1740; 谷口ほか, 2012, 地団研専報, 59, 185–192; 常盤ほか, 2016, 地質雑, 122, 625–635; Wu & Wu, 2019, Geology, 47, 953–957.