日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T10[トピック]文化地質学【EDI】

[3oral601-10] T10[トピック]文化地質学【EDI】

2023年9月19日(火) 08:45 〜 12:00 口頭第6会場 (共北37:吉田南総合館北棟)

座長:髙橋 直樹(千葉県立中央博物館)、坂本 昌弥(九州ルーテル学院大学)、大友 幸子(山形大学)

09:15 〜 09:30

[T10-O-13] 須恵器の鉱物組成とその胎土の推定

*小滝 篤夫1 (1. なし)

キーワード:須恵器、鉱物組成、胎土

はじめに  
 考古学において,土器を作る材料として使われた土(胎土)の産地の推定には,胎土の可能性のある土と土器の化学組成を蛍光X線分析によって調べ,ハーカー図上のデータの分布や,統計学的に,胎土の土器の元素組成の同一性を推定する方法が試みられてきた(例えば,三辻ほか2013,清水1986).この方法では,統計的処理に必要な多数の土器試料の分析が必要になる.一方,土器と胎土中の鉱物を比較して対比ができれば,1点の土器でも胎土の推定が可能になる可能性がある.
 須恵器など1000℃以上の高温で焼成するとされている土器中の鉱物は熱で変質していて同定が難しいとされ,土器中の鉱物観察から胎土を推定する方法はあまりとられてこなかった.ところが増島(2009)では電気炉による焼成実験によって胎土中の鉱物の光学的性質の残存状況を検討し,800℃以下の場合普通角閃石が本来の光学的性質を維持していると推論している.
 そこで,筆者は,京都府福知山市夜久野町末地区で表採された,京都府立大学考古学研究室と福知山市文化財保護係が保管される須恵器片のうち「焼きが甘い」と思われる試料の岩石薄片を作成・鉱物観察をし,末地区周辺の地質分布と比較をして,胎土を推定する方法を試みた.

須恵器窯跡の地質
 末地区には夜久野オフィオライトのメンバーであるはんれい岩が分布し,地表下数m以上の深さまで風化が進みマサ土状になっている.その中には斜長石,直方輝石,普通角閃石,粘土鉱物が確認できる.須恵器を焼いた窯跡の多くはこのはんれい岩域に分布している.一部の窯跡は,三畳系夜久野層群の砂岩・頁岩の分布域にある.

須恵器片中の鉱物  
 上記の2地域に産する須恵器片の薄片を偏光顕微鏡下で観察した.ほとんどの薄片で粗粒砂サイズの斜長石や普通角閃石,直方輝石が観察された.

胎土の推定
 末地区に砕屑物を供給する周辺地域の地質としては,はんれい岩,砂岩・頁岩以外に,第四紀玄武岩火山(斜長石,単斜輝石,かんらん石の斑晶),古第三紀の花こう岩(石英,斜長石,黒雲母),白亜紀の流紋岩質火砕岩が分布している(石渡,2005)が,いずれも普通角閃石.直方輝石は含んでいない.これらのことから末地区の須恵器の胎土は窯が立地した場所で採取されたものと推察する.また,夜久野層群分布地の窯でも.はんれい岩の風化土が胎土である可能性が高い.

文献 ・石渡 明・市山祐司(2005)夜久野町史第1巻,159-180.・増島 淳(2009)静岡地学,No.100,51-59.・三辻利一ほか(2013)分析化学,62(2),73-87.・清水芳裕(1986)京都大学構内遺跡調査研究年報,1983,49-60.