日本地質学会第130年学術大会

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セッション口頭発表

T15[トピック]地域地質・層序学:現在と展望

[3oral701-11] T15[トピック]地域地質・層序学:現在と展望

2023年9月19日(火) 09:00 〜 12:00 口頭第7会場 (共北38:吉田南総合館北棟)

座長:成瀬 元(京都大学)、菊川 照英(千葉県立中央博物館)、里口 保文(琵琶湖博物館)

09:45 〜 10:00

[T15-O-10] 蝦夷層群の統合層序と凝灰岩の放射年代に基づく白亜紀海洋無酸素事変OAE1aの年代モデルについて-日米英共同プロジェクトの成果-

*髙嶋 礼詩1、Singer Bradley2、Selby David3、Schmitz Mark4、Sageman Bradley5、Li Youjuan2、Podrecca Luca5、Savatic Katarina5、林 圭一6、山中 寿朗7 (1. 東北大学、2. ウィスコンシン大学、3. ダラム大学、4. ボイス州立大学、5. ノースウェスタン大学、6. 北海道地質研究所、7. 東京海洋大学)

キーワード:白亜紀、アプチアン、海洋無酸素事変、蝦夷層群

後期白亜紀の年代モデルは,主に北米Western Interior Seawayの地層において,各種化石・同位体比・サイクル層序と凝灰岩の放射年代を組み合わせることにより構築されてきた.一方,前期白亜紀のタイムスケールについては,層序学的研究が盛んにおこなわれてきたヨーロッパ地域の地層に凝灰岩がほとんど挟まらないため放射年代が得られず,各ステージ境界の年代値については不確定要素が高い(Gale et al., 2020).とりわけ,Aptian階の基底の年代については,Malinverno et al. (2012)の年代モデルとGradstein et al. (2012)の年代モデルの間に500万年近くの差が生じている(Erba et al., 2015).
 北海道中軸部に露出する白亜系蝦夷層群は,全層厚が10,000mにも達する前弧海盆堆積物で,保存良好な化石が多産するとともに,多くの層準で流紋岩質凝灰岩を挟む.近年,各種化石層序と炭素同位体比・オスミウム同位体比層序を統合することにより,欧米にある白亜系各ステージのGSSPと蝦夷層群の間での高精度の層序対比が可能となった(e.g., Du Vivier et al., 2015; Takashima et al., 2019).このことから,蝦夷層群における凝灰岩の年代測定は,白亜紀のタイムスケールの精度向上に大きな貢献ができる可能性が高い.
 本研究はJSPS国際共同研究BおよびNSF-NERSの支援を受けた共同プロジェクトとして,蝦夷層群最下部の地層を用いて,Aptian/Barremian境界およびOAE1a層準の年代モデルの構築を目指した.北海道芦別地域中天狗沢の蝦夷層群最下部には,層厚約800mの泥岩ないし珪質泥岩からなる地層中に211枚もの珪長質凝灰岩層が挟まる.この区間の地層からおよそ層厚25㎝~50cm間隔で合計2000試料の泥岩・珪質泥岩試料,150試料の凝灰岩試料を採取し,炭素同位体比,オスミウム同位体比,ジルコンのCA-ID-TIMSによるU-Pb年代測定を実施した.その結果,蝦夷層群において,バレミアン/アプチアン境界およびOAE1a層の区間が明瞭に特定することができ,バレミアン/アプチアン境界に挟まる凝灰岩からは121.20±0.23 Ma,OAE1a層準の基底に挟まる凝灰岩からは119.63±0.14 Ma,OAE1a最上部の層準の凝灰岩からは118.84±0.13 Maの年代を得ることができた.これらの結果は,Geologic Time Scale 2020で示された年代よりも2~30万年ほど若く,最近提案された天文年代較正に基づくアプチアンのタイムスケール(Leandro et al., 2022)より2,30万年古い年代を示すことが明らかとなった.

引用文献
Erba et al., 2015. The Geological Society of America Special Paper 511, 271-303.
Gradstein et al., 2012. The Geologic Time Scale 2012, 793-854.
Malinverno et al., 2012. Geophys. Res., 117, B06104, DOI:10.1029/2012JB009260.
Du Vivier et al., 2015. EPSL, 428, DOI:10.1016/j.epsl.2015.07.020.
Takashima et al., 2019. Newsletters on Stratigraphy, DOI:10.1127/nos/2019/0472.
Gale et al., 2020. Geologic Time Scale 2020, 1023-1086.
Leandro et al., 2022. Nature Com. https://doi.org/10.1038/s41467-022-30075-3