日本地質学会第130年学術大会

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セッション口頭発表

T15[トピック]地域地質・層序学:現在と展望

[3oral701-11] T15[トピック]地域地質・層序学:現在と展望

2023年9月19日(火) 09:00 〜 12:00 口頭第7会場 (共北38:吉田南総合館北棟)

座長:成瀬 元(京都大学)、菊川 照英(千葉県立中央博物館)、里口 保文(琵琶湖博物館)

11:30 〜 11:45

[T15-O-16] 残留磁化分析による東京低地における沖積基底礫層の堆積年代決定

*羽田 裕貴1、田邊 晋1、小田 啓邦1 (1. 国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター)

キーワード:河川成礫層、古地磁気、最終氷期最大期

平野沿岸域地下に分布する河川成礫層は、地層の側方対比や堆積盆の形成史、構造運動史を理解する上で重要な鍵層である。しかし、礫層は年代制約に有用な炭質物や微化石を含まないことが多く、直接的にその堆積年代を求めることは困難である。そのため、河川成礫層の堆積年代や時空間分布は不明であることが多い。
粘性残留磁化年代法は、堆積後に地層中の細粒な磁鉄鉱が獲得する粘性残留磁化と呼ばれる二次磁化に基づく手法であり、津波や氷河性モレーンに由来する巨礫に用いることで、地質災害の発生年代が求められてきた(Pullaiah et al., 1975など)。近年では、より粗粒な磁鉄鉱の影響を補正する拡張指数関数法(Sato et al., 2016)が提案され、本手法が適用可能な試料の幅が大きく広がった。本研究では、粘性残留磁化年代法を用いて、東京低地地下に分布する沖積層の基底を構成する河川成礫層の堆積年代決定を試みた。
東京都葛飾区で掘削されたGS-KNJ-1コア(Tanabe et al., 2015)の沖積基底礫層から数cm径の中礫を採取した。礫はおおよそ1 cm x 1 cm x 5 mmに整形し、残留磁化分析用試片とした。試片に対して2〜50˚C刻みで段階熱消磁を行い、粘性残留磁化の抽出を試みた。また、試片に含まれる磁性鉱物の種類、磁性鉱物の磁区構造を推定するために、熱磁気実験、FORC分析、等温残留磁化の段階着磁実験を行った。さらに、拡張指数関数パラメータを決定するために熱緩和実験を行った。熱緩和実験では、試片に100mTの等温残留磁化を着磁した後、230˚Cで加熱しながら磁化測定を行った。
深度61.5 mから採取した1つの火成岩礫から、230˚Cで消磁される磁化成分を検出した。各種岩石磁気実験から、対象試料には単磁区および多磁区サイズのチタンに乏しいチタン磁鉄鉱が含まれることが推定された。得られた消磁温度、拡張指数関数パラメータおよび深度50 mの観測温度から、最終氷期最大期b(LGM-b; Yokoyama et al., 2018)に相当する年代値を得た。これは、堆積モデルから推定されている沖積基底礫層の堆積年代と矛盾しない。今後は、沖積基底礫層の年代データを拡充するとともに、より古い河川成礫層で本手法の有用性を検討する。
Pullaiah et al., 1975, EPSL, 28, 133–143; Sato et al., 2016, JGR: Solid Earth, 121, 7707–7715; Tanabe et al., 2015, Sedimentology, 62, 1837–1872; Yokoyama et al., 2018, Nature, 559, 603–607