日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T5[トピック]テクトニクス

[3poster01-13] T5[トピック]テクトニクス

2023年9月19日(火) 13:30 〜 15:00 T5_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T5-P-1] デコルマ設定条件の違いによる付加サイクル中の付加体の変形パターンの違い

*野田 篤1、Fabien Graveleau2、Cesar Witt2、Frank Chanier2、Bruno Vendeville2 (1. 産業技術総合研究所、2. リール大学)

キーワード:沈み込み帯、アナログ実験、付加体、画像解析

プレート沈み込み帯に発達する一般的な付加体は,前縁付加から始まり,底付付加(アンダースラスティング)で終わる付加サイクルの繰り返しによって発達する.この付加サイクルの過程で,付加体の変形が集中する位置は海側から陸側へと移動する(図).この種の周期的な変形パターンは,プレートの沈み込み帯の運動学と力学を理解する上で非常に重要あり,プレート境界の固着域に関連したプレート境界型地震の発生機構とも関連する.そこで,付加サイクル中の変形スタイルと付加体内のスラスト活動がどのような時間的・空間的変化を示すのかを調べるために,複数の異なる条件を設定した上で,砂箱を用いたアナログ実験を実施した.
 本研究では,2次元の大幅短縮(1 m)が可能な砂箱を用いて,付加する堆積物に含まれる弱層(デコルマ)の構成について,4つの異なるタイプを設定して実験を行った(タイプ 1:連続する単一の弱層.タイプ2:連続する2層の弱層.タイプ3:不連続な単一の弱層.タイプ4:1層だけが不連続な2層の弱層).実験は側方からカメラで連続撮影し,その画像をオープンソースのDICソフトウェア(Ncorr)を使用して定量的に変位量とひずみ量を求めた.得られたデータから,付加体の形状,付加サイクル中の変形集中帯の位置,活動中のスラストの位置(順序外スラストの活動),付加体と沈み込むプレートとのカップリングの程度などを解析した.
 単一のデコルマを備えた参照モデル(タイプ 1)は,変形集中帯の陸側への伝播および既存のスラストの再活性化を伴う前縁付加の周期的なサイクルによって支配される.各サイクルは,プロトスラスト帯における変形の開始(Phase 0),新しい前縁スラストの出現(Phase 1),前縁付加の進行(Phase 2),付加体内部の既存スラストの再活性化と底付付加(Phase 3)の4段階で構成される.Phase 0からPhase 3までの付加サイクルの過程を通じて,プレート境界の固着域が陸側へ移動するとともに,付加体内部にひずみが蓄積し,圧密が進む.一方,変形前線(deformation front)に新たな前縁スラストが現れると(Phase 1),付加体底部のプレート間固着は突然失われ,リラックスした状態になる.このようなサイクルを通じて,付加体全体は硬化と軟化を経験しながら徐々に強度が増加し,臨界状態に近づくと考えられる.
 連続する2層の弱層モデル(タイプ 2)はタイプ1と同様の付加サイクルを示すが,断層ネットワークはタイプ1よりも複雑で,主要なすべり面(プレート境界面)は下位側と上位側の弱層との間を交互に移動する.これにより,付加体前縁部で沈み込む堆積物のアンダースラストが促進される.弱層を不連続にした実験(タイプ3とタイプ4)では,付加サイクルの波長は乱れ,結果として急傾斜の内側ウェッジと緩傾斜の外側ウェッジの組み合わせが生成された.特に,2層の弱層を含むタイプ4では,上側の弱層が低角度な巨大スラストとして機能し,アンダースラスト(堆積物の底付付加)が大幅に促進された.
 これらの結果は,付加する堆積物に含まれる弱層の数や連続性が付加体の変形パターンやプレート間固着域の範囲に影響を及ぼすこと示している.本研究の結果を天然の沈み込み帯で観測される地震や地殻変動などの諸現象と比較することで,天然の沈み込み帯におけるメカニズムとダイナミクスの理解に貢献できる.