日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T15[トピック]地域地質・層序学:現在と展望

[3poster48-73] T15[トピック]地域地質・層序学:現在と展望

2023年9月19日(火) 13:30 〜 15:00 T15_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T15-P-18] (エントリー)北海道中央北部添牛内地域の砕屑性蛇紋岩

【ハイライト講演】

*金澤 安蓮1、吉田 孝紀2 (1. 信州大学大学院総合理工学研究科、2. 信州大学学術研究院)

世話人よりハイライトの紹介:北海道中軸部の中新統から点々と蛇紋岩が礫岩あるいはブロックとして産する.これらは蛇紋岩が地表に露出したことを示唆するが,詳しい研究は乏しかった.今回の発表では明確には産出が知られてなかった北海道北部の蛇紋岩礫岩を記載し,堆積相などの観察・分析によって堆積機構や蛇紋岩が当時どのように露出していたかを復元し,当時のテクトニクスについて考察するものである.※ハイライトとは

キーワード:蛇紋岩、砕屑性蛇紋岩、前期〜中期中新世、北海道中央北部

はじめに
 砕屑性蛇紋岩の堆積年代は蛇紋岩体の地表への露出年代を表すとされ[1],蛇紋岩の活動時期を議論する上で重要な証拠となる.これまで北海道中軸部の蛇紋岩分布域に沿って白亜紀〜新第三紀の砕屑性蛇紋岩が報告されている[2〜5など].このうち中新統からの砕屑性蛇紋岩の報告は日高地域に限られており[4,5],他地域では添牛内図幅の築別層中の砂岩が “蛇紋岩質砂岩からなる”と記載されているのみである[6].これらの砕屑性蛇紋岩は中新世における蛇紋岩の活動の証拠として捉えられるが,北海道中央部以北に分布する蛇紋岩の活動時期は不明瞭であった.
 今回,北海道幌加内町北部の添牛内地域の早雲内川中流域での地質調査中に蛇紋岩礫に非常に富む粗粒砕屑岩を再発見した.本研究はこの砕屑性蛇紋岩について記載し,蛇紋岩の活動に関連した当時の古環境やテクトニクスについて考察する.
地質概説
 北海道幌加内町北部の添牛内地域には白亜系蝦夷層群や蛇紋岩が基盤岩として分布し,これらを新第三系・第四系が不整合に覆う.このうち中部中新統は築別層と古丹別層に区分される.築別層は蝦夷層群や蛇紋岩を不整合に覆うか,断層でそれらと接し,古丹別層に整合に覆われる.築別層はさらに礫岩・砂岩・泥質岩中に石炭層を挟在する朱鞠内夾炭層,蛇紋岩質の砂岩・礫岩からなる三十線沢含化石砂岩部層,泥岩からなる天狗の花泥岩部層に区分される[6].
蛇紋岩質砕屑物を含む築別層
 早雲内川中流域に分布する築別層には級化・逆級化・塊状を呈する不淘汰な礫岩と,不明瞭な層状を呈する砂岩が含まれる.これらは,層厚48mで,下部から,含礫砂岩,礫岩と重なり,最上部では礫質砂岩や礫岩からなる一連の層序を示す.礫岩や砂岩は単層厚が10cmから3mであり,Bauma sequence Taからなる級化構造を示す.礫岩は単層全体に逆級化構造を持つものや下底面での浸食構造を持つものがある.塊状を呈する礫岩では,内部堆積構造は認められないものの,巨礫が中礫中に不規則に散在・浮遊する.これらの特徴は砕屑岩が混濁流やデブリフロウなどの高密度な重力流から堆積したことを示す.これらの地層は規則的な累重パターンを示さず,ランダムに出現する.礫岩中の礫は蛇紋岩が多いが,微閃緑岩を含むことがあるが,一様に良く円磨されている.それ以外の礫種は含まれない.礫岩・砂岩の基質中あるいは礫表面の付着物としてゴカイ・コケムシ・二枚貝などの化石を多産する.
 鏡下観察によれば,砂岩の砕屑粒子のほとんどが蛇紋岩片からなり,クロマイトや緑泥石化した岩片を含むことがある.ゴカイ・コケムシ片を多量に含む.基質は粘土サイズの炭酸塩鉱物からなるが,セメント物質との区別は判然としない.蛇紋岩礫は主に蛇紋石,クロマイトからなり,かんらん石や方解石,緑泥石を含むことがある.輝石を蛇紋石が置換したバスタイト構造が見られることがある.微閃緑岩礫は主に斜長石,単斜輝石,黒雲母からなり,輝石は褐色の角閃石の反応縁を持つ.この角閃石の一部はさらに緑泥石に置換されている.副成分鉱物として金属鉱物やアパタイトなどを含む.蛇紋石や滑石の脈に貫かれることがあるのが特徴的である.
考察
 砕屑岩はデブリフロウ等の高密度な重力流堆積物の不規則な累重からなる.これはこれらの砕屑岩がチャネルやローブとして堆積したものではなく,斜面上で不規則に生じた小規模な重力流堆積物の集積であることを示唆している.そのため,海底斜面上に生じたスロープエプロン系による供給が考えられ,堆積場の後背地に断層崖などの急斜面を背景にしたことが推測される.全層準を通して蛇紋岩以外の砕屑粒子に非常に乏しいことは,起源となった地質体が蛇紋岩体のみから構成されていたことを示す.微閃緑岩が蛇紋石脈に貫かれることから,微閃緑岩は超苦鉄質岩中に取り込まれていた可能性を示す.以上から砕屑岩は上昇・露出した蛇紋岩(+微閃緑岩)体が作る断層崖の前面にて形成されたと考えられる.南方の日高地域では築別層の堆積と同時期の蛇紋岩の活動が知られており(紅葉山蛇紋岩海山列;[7]),中新世前期〜中期の蛇紋岩の上昇・露出イベントは北海道南部から少なくとも中央部までは連続したと考えられる.
文献
[1]荒井ほか,1983.地質雑,89,287-297.[2]永田ほか,1987.地球科学,57-60.[3]吉田ほか,2003.地質雑,109,336-344.[4]Okada H., 1964. Mem. Fac. Kyushu Univ. Ser. D, Geology, 15: 23-38.[5]新井田・福井,1987.穂別町立博物館研究報告,4,33-48.[6]橋本ほか,1965.5万分の1地質図幅「添牛内」及び説明書.[7]加藤・合地,2008.日本地質学会第 115 年学術大会要旨,229.