一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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認定医審査ポスター1

2023年6月16日(金) 12:00 〜 13:30 ポスター会場 (1階 G3)

[認定P-2] von Willebrand病高齢患者の智歯周囲炎から継発した顎下部蜂窩織炎に対し、消炎および原因歯抜去を施行した症例。

○森田 奈那1,2、潮田 高志1 (1. 地方独立行政法人東京都立病院機構東京都立多摩北部医療センター歯科口腔外科、2. 東京歯科大学オーラルメディシン・病院歯科学講座)

【緒言・目的】
高齢者における口腔局所の炎症は、組織の脆弱性や免疫力の低下などの背景から,若年者に比して比較的容易に隣接領域へ炎症が波及する危険性がある。今回von Willebrand病の高齢患者の智歯周囲炎から継発した顎下部蜂窩織炎に対し, 既往と循環動態に配慮しながら消炎および原因歯抜去を実施した症例を経験したので報告する。

【症例および経過】
75歳, 女性。von Willebrand病(以下VW)と高血圧症の既往あり。左側顎下部の腫脹を主訴に近隣歯科医院を受診後,精査加療目的に2022年10月に当科紹介となった。当科初診時, 左側顎下部の腫脹と下顎智歯部の腫脹と疼痛を認めた。血液検査では白血球15900/µL,好中球84.9%,CRP7.27mg/dLであり,下顎左側智歯周囲炎から継発した左側顎下部蜂窩織炎と診断し入院加療とした。既往を考慮し,切開・排膿術は実施せずMEPM6g/日の点滴投与を行うこととした。第7病日には消炎し経過良好のため退院となった。原因歯の抜去は2022年11月に再度入院下で行った。術前に当院血液内科で凝固第Ⅷ因子補充療法を実施し下顎左側智歯の抜歯術を施行した。抜歯は静脈ルートを確保し,モニタリング下で循環動態を把握し術中の血圧変動に備え降圧剤・抗不安薬を準備の上で行った。創部は吸収性コラーゲンスポンジを填入し緊密な縫合を実施した。抜歯後14日に経過良好で抜糸を行った。
なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。

【考察】
VWは大部分が常染色体優性遺伝であり,主に血小板粘着能が障害されることにより紫斑や口腔内出血などの反復する粘膜・皮膚出血を特徴する。観血処置時の異常出血予防にVW因子や凝固第Ⅷ因子の補充療法を行う場合がある。本症例においては抜歯部位が炎症を伴う半埋伏智歯であり,術中の出血とそれに伴う止血困難が予想された。そのため術前の凝固因子補充療法の必要があると判断された。手術施行時は静脈ルートを確保し,術中の血圧変動と出血に備えた。有病高齢者の歯科治療においては継続的なモニタリングの有用性が報告されているが,出血傾向のある患者では血圧変動による出血で手術操作が阻害され,術時間の延長につながり患者負担が大きくなるため,特に循環動態の把握は重要であること考えられる。
(COI開示:なし,倫理審査対象外)