一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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認定医審査ポスター4

2023年6月16日(金) 12:00 〜 13:30 ポスター会場 (1階 G3)

[認定P-21] 球麻痺症状を伴う筋萎縮性側索硬化症患者に対し,迅速な補綴的アプローチにて経口摂取を維持した症例

○武田 瞬1、片倉 朗2 (1. 武田歯科医院、2. 東京歯科大学 口腔病態外科学講座)

【緒言・目的】
 筋萎縮性側索硬化症(ALS)における摂食・嚥下障害はいずれの病型であってもほぼ必発するが,その程度や進行速度は症例によって異なる。今回, ALS患者に対し迅速な補綴的アプローチにより咬合を回復させ,舌接触補助床(PAP)にて嚥下障害に対応しQOLの向上を図った症例を経験したので報告する。

【症例および経過】
 74歳男性。BMI21,既往歴に脳梗塞,大動脈瘤術後,高血圧症,糖尿病。義歯の痛みと口腔内の粘つきを主訴に来院。上顎フラビーガムを伴う全部床義歯の適合不良と義歯性潰瘍を認めた。喋りにくさの自覚と口腔機能精密検査の所見(舌圧14kPa,グルコセンサーによる咀嚼能力35mg/dL,舌口唇運動機能/ta/5.2/ka/4.4回/秒)から義歯不適合および口腔機能低下症と診断した。改訂水飲みテスト4。初診より2ヶ月後にALSと診断されたことからALSに伴う摂食嚥下障害に診断を改め治療を進めた。過用性筋力低下に留意しながら舌圧トレーニングと「あいうべ体操」を継続した。球症状の進行とともに月単位で舌圧の低下がみられたことからPAP義歯を製作した。新義歯装着により食物の口腔内残留が解消し,舌圧(5.7→12.7kPa),咀嚼機能(35→121mg/dL)および口腔関連QOL(OHIP-EDENT-J 32→13)の改善が得られた。一方で構音障害の回復は限定的であり,ALSの病状は進行していった。ALS診断より8ヶ月後に胃瘻造設となるも,とろみ付きの食事や複数回嚥下の食事指導を行い経口摂取と併用した。患者は在宅療養にて最期まで経口摂取を継続されていたが,さらに3ヶ月後呼吸状態の悪化により逝去された。
 なお,本報告の発表について患者家族から文書による同意を得ている。

【考察】
 複製義歯を用いることで開窓による無圧印象,咬座印象と習慣性咬合位の同時採得を行い,さらにはリマウント咬合調整により機能的な義歯製作が可能となり,迅速に器質性咀嚼障害の機能回復を図ることができた。一方で球症状の進行は早く,短期間で運動障害性咀嚼障害の問題が顕在化していった。後者の咀嚼障害に対しては病状とこれに伴い変化していく口腔機能の適切な再評価が求められ,食形態変更などの代償的アプローチの重要性が増してくると考えられた。

(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)