9:55 AM - 10:20 AM
[SB2-03] Development of Novel Lactic Acid Bacterium That Reduce Histamine in Soy Sauce
Keywords:Soy Sauce, Lactic Acid Bacterium, Histamine, Starter
【講演者の紹介】
福良 奈津子(ふくら なつこ) 宮崎県総合農業試験場 生産流通部 主任研究員
略歴:2012年大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻修了,同年 宮崎県庁入庁.2018年宮崎県食品開発センター応用微生物部,2024年宮崎県総合農業試験場生産流通部,現在に至る.
研究分野:醸造,食品の機能性
全国的には,品質安定化のため醤油乳酸菌や醤油酵母などの微生物スターターを利用した醸造が主流となりつつある中,本県は,他県と比べて自社で醤油もろみを製造する工場が多く,そのほとんどが蔵付きの微生物を利用した醸造を行っている.しかし,蔵付きの野生乳酸菌の中には,アレルギー様食中毒の原因となるヒスタミンを産生するものもあり,醤油業界で課題となっている.
そこで,ヒスタミンの産生を抑制するための醤油乳酸菌スターターの開発に取り組んだ.本県の醤油もろみから,ヒスタミンを産生せず,かつ,醤油の品質向上に寄与する特徴をもつ新規醤油乳酸菌を探索し,本県オリジナルの醤油乳酸菌スターターとして開発するに至ったので報告する.
まず,自社でもろみを製造する県内醤油製造場の実態調査を行った.県内醤油もろみ中のヒスタミン濃度は,CODEX基準400 mg/kg(魚醤)を超えないものの,10製造場中8場でヒスタミンが検出され,県産醤油中のヒスタミン低減への取組の必要性が明らかとなった.
そこで,醤油製造場10社の醤油もろみから耐塩性乳酸菌218株を分離し,ヒスタミン産生遺伝子を保有せず,醤油の濁りを抑える効果のある凝集性が高い9株を選抜した.9株を添加した小仕込み試験を実施し,生揚醤油の官能評価が最も優れた新規醤油乳酸菌Tetragenococcus halophilus MS0204を選抜した.選抜したMS0204は,ジアセチル高産生で,糖類資化性が既存株と異なることから本県オリジナルの株であり,アスパラギン酸をアラニンに変換することで醤油の香味改善が期待でき,アルギニンを分解しないことから発がん性が危惧されるカルバミン酸エチルの前駆体を生成しないという特徴を有していた.
さらに,新規醤油乳酸菌の分譲へ向け,拡大培養の検討と県内醤油製造場での実証試験を行った.MS0204は,県内製造の淡口生揚を用いた培地により,30~35℃で培養することで拡大培養が可能となり,冷蔵で2週間保存できることを確認した.また,実規模の試験醸造を行ったところ,本菌の添加がヒスタミンの産生を抑制することが確かめられた.本菌の特徴であるアミノ酸の消長も確認された.さらに醤油の官能評価は,無添加のものと同等以上であり,MS0204が醤油用スターターとして有効であることが確認された.
開発した新規醤油乳酸菌MS0204を醤油の仕込み時に添加することで,①ヒスタミンの産生を抑えることができる,②醤油の濁りを抑えることができる,③醤油の味をまろやかにすることができるなどの利点があり,醤油の品質向上に威力を発揮する.本菌は,令和4年9月28日特許を取得(特許第7148921号)し,現在,県内の味噌醤油製造企業17社から成る宮崎県味噌醤油工業協同組合から,「新規乳酸菌スターター液」として販売中である.MS0204をスターターとして活用することで,県産醤油の品質向上が図られる.特に,ヒスタミンの低減により,より厳しい衛生管理を求められる海外市場への販路拡大につながると期待される.
福良 奈津子(ふくら なつこ) 宮崎県総合農業試験場 生産流通部 主任研究員
略歴:2012年大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻修了,同年 宮崎県庁入庁.2018年宮崎県食品開発センター応用微生物部,2024年宮崎県総合農業試験場生産流通部,現在に至る.
研究分野:醸造,食品の機能性
全国的には,品質安定化のため醤油乳酸菌や醤油酵母などの微生物スターターを利用した醸造が主流となりつつある中,本県は,他県と比べて自社で醤油もろみを製造する工場が多く,そのほとんどが蔵付きの微生物を利用した醸造を行っている.しかし,蔵付きの野生乳酸菌の中には,アレルギー様食中毒の原因となるヒスタミンを産生するものもあり,醤油業界で課題となっている.
そこで,ヒスタミンの産生を抑制するための醤油乳酸菌スターターの開発に取り組んだ.本県の醤油もろみから,ヒスタミンを産生せず,かつ,醤油の品質向上に寄与する特徴をもつ新規醤油乳酸菌を探索し,本県オリジナルの醤油乳酸菌スターターとして開発するに至ったので報告する.
まず,自社でもろみを製造する県内醤油製造場の実態調査を行った.県内醤油もろみ中のヒスタミン濃度は,CODEX基準400 mg/kg(魚醤)を超えないものの,10製造場中8場でヒスタミンが検出され,県産醤油中のヒスタミン低減への取組の必要性が明らかとなった.
そこで,醤油製造場10社の醤油もろみから耐塩性乳酸菌218株を分離し,ヒスタミン産生遺伝子を保有せず,醤油の濁りを抑える効果のある凝集性が高い9株を選抜した.9株を添加した小仕込み試験を実施し,生揚醤油の官能評価が最も優れた新規醤油乳酸菌Tetragenococcus halophilus MS0204を選抜した.選抜したMS0204は,ジアセチル高産生で,糖類資化性が既存株と異なることから本県オリジナルの株であり,アスパラギン酸をアラニンに変換することで醤油の香味改善が期待でき,アルギニンを分解しないことから発がん性が危惧されるカルバミン酸エチルの前駆体を生成しないという特徴を有していた.
さらに,新規醤油乳酸菌の分譲へ向け,拡大培養の検討と県内醤油製造場での実証試験を行った.MS0204は,県内製造の淡口生揚を用いた培地により,30~35℃で培養することで拡大培養が可能となり,冷蔵で2週間保存できることを確認した.また,実規模の試験醸造を行ったところ,本菌の添加がヒスタミンの産生を抑制することが確かめられた.本菌の特徴であるアミノ酸の消長も確認された.さらに醤油の官能評価は,無添加のものと同等以上であり,MS0204が醤油用スターターとして有効であることが確認された.
開発した新規醤油乳酸菌MS0204を醤油の仕込み時に添加することで,①ヒスタミンの産生を抑えることができる,②醤油の濁りを抑えることができる,③醤油の味をまろやかにすることができるなどの利点があり,醤油の品質向上に威力を発揮する.本菌は,令和4年9月28日特許を取得(特許第7148921号)し,現在,県内の味噌醤油製造企業17社から成る宮崎県味噌醤油工業協同組合から,「新規乳酸菌スターター液」として販売中である.MS0204をスターターとして活用することで,県産醤油の品質向上が図られる.特に,ヒスタミンの低減により,より厳しい衛生管理を求められる海外市場への販路拡大につながると期待される.