The 71th Annual Meeting of JSFST

Presentation information

Symposia

シンポジウムC

[SC1] シンポジウムC1

Sat. Aug 31, 2024 2:15 PM - 5:00 PM Room S4 (3F N301)

Caretaker:Tomio Yabe

3:45 PM - 4:10 PM

[SC1-04] Effectiveness of partially hydrolyzed guar gum on brain function

*Aya Abe1 (1. Taiyo Kagaku Co., Ltd.)

Keywords:Partially hydrolyzed guar gum, fermentable dietary fiber, gut-brain axis, sleep, cognitive function

    安部綾(あべ あや):太陽化学(株)ニュートリション事業部研究開発グループ所属長
    略歴:2007年東京大学農学生命科学研究科卒業, 2007年太陽化学(株)入社, 2016年東京大学農学生命科学研究科社会人博士課程入学, 2019年学位:博士(農学), 2019年太陽化学(株)ニュートリション事業部研究開発グループ学術チーム研究員, 2024年同研究開発グループ所属長~現在に至る.

    グアーガム分解物(Partially Hydrolyzed Guar Gum, 以下PHGGと略す)は, インド北部やパキスタンなどで生育する豆科植物のグアー豆から得られる水溶性食物繊維である. PHGGはマンノースの主鎖にガラクトースの側鎖が結合したガラクトマンナンであり, 発酵性が高く, ヒトの腸内でBifidobacteriumや酪酸産生菌などの有用菌の比率を増やし, 短鎖脂肪酸の産生を促進することが示されている. また, 腸内で急激な発酵を引き起こしにくいlow FODMAP食品であり, 腸内環境改善, 便通改善, 下痢改善作用などに関する多くの科学的根拠を有し, プレバイオティクスとして排便コントロールへの活用が広がっている. 近年, 腸内環境は全身の健康に関連することが分かりつつあり, 腸と脳が双方向に影響し合うという腸脳相関も注目を集めている. そこで, 我々はPHGGの脳機能への作用を明らかにするためにヒト臨床試験を行った. まず, 便秘の自覚を有する健常者を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間試験によりPHGGの腸内環境およびメンタルヘルスへの影響を検証した. 60名の健常者をプラセボ群, PHGG 3 g/日摂取群, PHGG 5 g/日摂取群の3群に分け, 被験者にはプラセボもしくはPHGGを毎日, 8週間継続摂取させ, 排便状況, 腸内細菌叢, メンタルヘルス(睡眠の質および意欲)への影響を調査した. この結果, 腸内細菌叢について, プラセボ群と比較して 3 g/日摂取群および5 g/日摂取群では短鎖脂肪酸産生に寄与する菌が増加し, ムチン分解および炎症への関与が示唆される菌の増殖が抑制されるなど, 腸内細菌叢に良好な変化が認められた. また, 5 g/日摂取群ではプラセボ群に比べて排便頻度が増加し, 排便のスッキリ感が改善するなど, 便通改善作用が確認された. メンタルヘルスに関する主観的評価スコアは, 全体的にプラセボ群よりも3 g/日摂取群および5 g/日摂取群において良好な傾向にあり, なかでも目覚めのすっきり感, 起床時の疲労感, 仕事や勉強に対するやる気のスコアについては, プラセボ群に比べて5 g/日摂取群で有意に改善した. 以上から, PHGGは腸内環境の改善を介して睡眠や意欲に良い影響を与える可能性が示された. 次に, 健常な高齢者を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間試験を行い, 認知機能やメンタルヘルスへの影響を検証した. 66名の健常な高齢者をプラセボ群, PHGG 5 g/日摂取群(PHGG群)に分け, プラセボもしくはPHGGを12週間毎日摂取させ, 認知機能検査, メンタルヘルス(睡眠の質および気分)に関する主観的評価を実施した. その結果, PHGG摂取群ではプラセボ摂取群と比較して, 認知機能検査における視覚記憶力スコアと, 睡眠の質の評価における起床時の眠気スコアが有意に改善した. 気分に関しては群間有意差はみられなかったものの, PHGG群では摂取前と比べて摂取後の活気や活力のスコアが有意に向上し, 混乱と当惑のスコアが有意に低下した. 以上より, PHGGの摂取により健常な高齢者の認知機能, 特に視覚記憶力が良好に維持され, 睡眠の質や気分などにも良い影響を与える可能性が示された. 今後は詳細なメカニズムの検証も含むより大規模な臨床試験が望まれるが, PHGGは腸内環境だけではなく, 心の健康にも寄与することが期待される.