[CPS2-01] 長崎県の肉用牛試験研究等の取組状況
1.農業の中の畜産
長崎県は九州の西北部に位置し、農地に適した平坦地が少ないほか、大消費地から遠いなど、農業発展の条件としては地理的・地形的に恵まれていない。
そうした中、本県では2016年に策定した「新ながさき農林業・農山村活性化計画」に基づき、農林業・農山村全体の所得向上を目指し、生産・流通・販売対策を軸とした施策を総合的に実施し、生産者や関係者の尽力によって農業産出額は全国平均を上回る増加率となっている。
中でも、畜産は本県の農業産出額1,499億円(2018年)のうち、562億円と、農業全体の約38%を占める基幹産業となっており、畜産物の安定供給はもとより、飼料・食肉加工・流通分野など関連産業を介した地域雇用の確保等にも大きく貢献している。
2.牛の歴史と肉用牛生産
本県における牛の歴史を辿ると、県内の遺跡(壱岐・五島)から弥生時代の牛骨等が発見されているほか、鎌倉時代に記された国産牛図説「国牛十図」には筑紫牛(壱岐)と御厨牛(平戸)が取り上げられるなど、古くから利用・飼育されてきた痕跡が残されている。
また、江戸時代には、トーマス・グラバーらによって長崎市内に日本初の解牛場(うしときば)が設置され、出島では牛肉料理が食されるなど、本県と「肉用牛」には歴史的に深いつながりがある。
令和2年畜産統計(農林水産省)によると、本県の肉用牛飼養戸数は2,370戸(全国第5位)、頭数は84,100頭(全国第6位)となっており、戸数は減少傾向にあるものの、頭数は増加傾向で推移している。
また、肉用牛の産出額は259億円と、本県農産物別第1位であり、本県の特徴である離島・半島および中山間地域の農業振興に不可欠な作目となっている。
3.肉用牛の改良
本県の肉用牛改良の歴史を振り返ると、明治~大正期の全国的な外来種交雑時代以降、黒毛和種としての品種固定までの間、主として鳥取県産種雄牛の導入により肉量重視の改良が行われた。その後、改良方針が肉質重視へと見直され、兵庫県産種雄牛の導入による改良が進められた。さらに1980年代に入ると、肉質・肉量を兼備した肉用牛生産体制確立のため、島根県産種雄牛の導入を行いながらも、当時発足した地域和牛育種組合との連携により、県産種雄牛の造成を進めてきた。
近年では、産肉能力を評価する育種価を活用した改良手法により、平茂晴、金太郎3、勝乃幸など、全国トップクラスの種雄牛が造成・利用されている。
なお、本県肉用牛は2012年に開催された第10回全国和牛能力共進会長崎大会「肉牛の部」において、霜降りの度合いをはじめとする肉質に最も優れているとの評価を受け、日本一である「内閣総理大臣賞」を獲得するなど、全国的に知名度を高めてきている。さらに、同第11回大会(2017年)においては、特別賞(交雑脂肪の形状賞)を受賞するなど、2大会連続の上位入賞を果たし、改良の成果と生産者の技術力の高さが証明された。
4.長崎和牛
本県では1991年に、ながさき牛銘柄推進協議会(現・長崎和牛銘柄推進協議会)を設立し、「長崎和牛」のブランド化による肉用牛の振興を図っている。
「長崎和牛」は2013年に地域団体商標として登録された本県産和牛肉の銘柄で、当初は「県内で肥育を目的として生産された和牛」と定義されたが、「生産者の顔が見える取り組み」を推進するため、2019年に「県内で『長崎和牛生産者登録制度に登録した生産者が』肥育を目的として生産した和牛」に改正された。なお、登録生産者は本協議会ホームページで公開されている。
ブランド化推進の一環として、2008年に「長崎和牛指定店制度」を創設し、当時40店舗程であった指定店(常時取扱店)も、現在では県内223店舗、県外130店舗、海外13店舗にまで広がりを見せている。また、香港、台湾、シンガポール、タイ、米国(ハワイ)など、海外への輸出も展開されている。
5.最近の肉用牛に関する試験研究の取組
長崎県農林技術開発センター畜産研究部門は、先導的技術の研究開発による本県農業の活性化を基本理念に掲げ、生産性や品質を向上させる生産技術など、所得向上に資する畜産技術の研究開発と技術移転を進めている。
肉用牛においては、高品質で省力・低コストな肉用牛生産技術を土台とした「長崎和牛」による日本一の肉用牛産地づくりを支えるため、受精卵移植技術、肥育期間短縮技術、肥育素牛育成技術などの研究に取り組んでいる。
本シンポジウムでは、当部門が「長崎和牛」の品質や生産性を向上させるために取り組んできた試験研究について、概説する。
長崎県は九州の西北部に位置し、農地に適した平坦地が少ないほか、大消費地から遠いなど、農業発展の条件としては地理的・地形的に恵まれていない。
そうした中、本県では2016年に策定した「新ながさき農林業・農山村活性化計画」に基づき、農林業・農山村全体の所得向上を目指し、生産・流通・販売対策を軸とした施策を総合的に実施し、生産者や関係者の尽力によって農業産出額は全国平均を上回る増加率となっている。
中でも、畜産は本県の農業産出額1,499億円(2018年)のうち、562億円と、農業全体の約38%を占める基幹産業となっており、畜産物の安定供給はもとより、飼料・食肉加工・流通分野など関連産業を介した地域雇用の確保等にも大きく貢献している。
2.牛の歴史と肉用牛生産
本県における牛の歴史を辿ると、県内の遺跡(壱岐・五島)から弥生時代の牛骨等が発見されているほか、鎌倉時代に記された国産牛図説「国牛十図」には筑紫牛(壱岐)と御厨牛(平戸)が取り上げられるなど、古くから利用・飼育されてきた痕跡が残されている。
また、江戸時代には、トーマス・グラバーらによって長崎市内に日本初の解牛場(うしときば)が設置され、出島では牛肉料理が食されるなど、本県と「肉用牛」には歴史的に深いつながりがある。
令和2年畜産統計(農林水産省)によると、本県の肉用牛飼養戸数は2,370戸(全国第5位)、頭数は84,100頭(全国第6位)となっており、戸数は減少傾向にあるものの、頭数は増加傾向で推移している。
また、肉用牛の産出額は259億円と、本県農産物別第1位であり、本県の特徴である離島・半島および中山間地域の農業振興に不可欠な作目となっている。
3.肉用牛の改良
本県の肉用牛改良の歴史を振り返ると、明治~大正期の全国的な外来種交雑時代以降、黒毛和種としての品種固定までの間、主として鳥取県産種雄牛の導入により肉量重視の改良が行われた。その後、改良方針が肉質重視へと見直され、兵庫県産種雄牛の導入による改良が進められた。さらに1980年代に入ると、肉質・肉量を兼備した肉用牛生産体制確立のため、島根県産種雄牛の導入を行いながらも、当時発足した地域和牛育種組合との連携により、県産種雄牛の造成を進めてきた。
近年では、産肉能力を評価する育種価を活用した改良手法により、平茂晴、金太郎3、勝乃幸など、全国トップクラスの種雄牛が造成・利用されている。
なお、本県肉用牛は2012年に開催された第10回全国和牛能力共進会長崎大会「肉牛の部」において、霜降りの度合いをはじめとする肉質に最も優れているとの評価を受け、日本一である「内閣総理大臣賞」を獲得するなど、全国的に知名度を高めてきている。さらに、同第11回大会(2017年)においては、特別賞(交雑脂肪の形状賞)を受賞するなど、2大会連続の上位入賞を果たし、改良の成果と生産者の技術力の高さが証明された。
4.長崎和牛
本県では1991年に、ながさき牛銘柄推進協議会(現・長崎和牛銘柄推進協議会)を設立し、「長崎和牛」のブランド化による肉用牛の振興を図っている。
「長崎和牛」は2013年に地域団体商標として登録された本県産和牛肉の銘柄で、当初は「県内で肥育を目的として生産された和牛」と定義されたが、「生産者の顔が見える取り組み」を推進するため、2019年に「県内で『長崎和牛生産者登録制度に登録した生産者が』肥育を目的として生産した和牛」に改正された。なお、登録生産者は本協議会ホームページで公開されている。
ブランド化推進の一環として、2008年に「長崎和牛指定店制度」を創設し、当時40店舗程であった指定店(常時取扱店)も、現在では県内223店舗、県外130店舗、海外13店舗にまで広がりを見せている。また、香港、台湾、シンガポール、タイ、米国(ハワイ)など、海外への輸出も展開されている。
5.最近の肉用牛に関する試験研究の取組
長崎県農林技術開発センター畜産研究部門は、先導的技術の研究開発による本県農業の活性化を基本理念に掲げ、生産性や品質を向上させる生産技術など、所得向上に資する畜産技術の研究開発と技術移転を進めている。
肉用牛においては、高品質で省力・低コストな肉用牛生産技術を土台とした「長崎和牛」による日本一の肉用牛産地づくりを支えるため、受精卵移植技術、肥育期間短縮技術、肥育素牛育成技術などの研究に取り組んでいる。
本シンポジウムでは、当部門が「長崎和牛」の品質や生産性を向上させるために取り組んできた試験研究について、概説する。