日本畜産学会第128回大会

講演情報

公開シンポジウム

市民公開シンポジウム2
畜産王国・九州のブランド確立を支える試験研究の取組

2021年3月28日(日) 16:00 〜 18:00 ライブ配信

座長:後藤 貴文(鹿大農)

実行委員会企画
視聴はこちら(Zoom)
パスコード:328942

[CPS2-04] 「はかた地どり」の開発と機能性表示に向けた取組み

〇福原 絵里子1 (1.福岡農総試)

1. はじめに
「はかた地どり」は、生産羽数57万羽(令和元年現在)を誇る福岡県のブランド地鶏である。昭和62年に開発されて以降、現在も生産・販売拡大に向けた様々な取り組みを生産者や関係機関が一体となって行っている。その中で、これまでに試験場が行った「はかた地どり」の開発と改良および機能性表示に向けた取組みについて紹介する。

2.「はかた地どり」の開発と改良
「水炊き」、「がめ煮」は福岡を代表する鶏肉料理であるが、昭和50年代にブロイラーが肉用鶏として主流となるにつれ、これらの料理に合うブロイラーとは異なる鶏肉が求められるようになった。そこで、試験場では郷土料理の味やイメージに合う在来鶏として、シャモを基礎とする地どりの開発を始めた。まずシャモ系統の基礎群を確立し、これと並行して、交配様式を確立するための掛け合わせ試験を実施した。その結果、生産性や食味評価に優れるシャモ♂×白色プリマスロック♀の交配様式を決定した。昭和62年12月に「はかた地どり」が完成し、翌年には本格的に生産が開始された。
「はかた地どり」は80日以上の飼育によるしっかりとした歯ごたえで、高級地鶏として人気となり、年間出荷羽数は生産開始5年後の平成4年に20万羽、平成20年には30万羽近くと順調に生産羽数を増やしていった。一方で、喧噪性が高いことからめ管理がしづらく傷付く鶏も多かったため、生産者から改善を要望されていた。また、流通販売側からは、唐揚げやソテーなど幅広い料理にマッチするよう、肉の食感をソフトに変えてほしいとの意見が寄せられた。さらに販売から20年を経過していたこともあり、平成19年に「はかた地どり」の改良に取り組むこととした。
新しい「はかた地どり」の開発では8種類の掛け合わせ試験を行った。その結果、シャモ♂×横斑プリマスロック♀から生まれた♂に白色プリマスロック♀の交配様式に決定した。この新しい「はかた地どり」は以前の「はかた地どり」と比較して、喧騒による傷付き鶏の割合が減少し、肉質は柔らかくなったがブロイラーよりは硬く、旨み成分「イノシン酸」含量が増加した。また、地どりの条件「在来鶏の血が50%以上」もクリアしており、平成22年に新しい交配様式による2代目「はかた地どり」の生産を開始した。

3.機能性成分「イミダゾールジペプチド」による機能性表示に向けた取組み
「はかた地どり」の新しい魅力を発掘し、更なる消費拡大を目指して、平成28年から機能性成分「イミダゾールジペプチド(IDP)」に着目した研究を開始した。
IDPはイミダゾール基を含むアミノ酸が結合したジペプチドの総称であり、代表的なものではアンセリンやカルノシンが知られている。IDPは食品の中でも特に鶏のムネ肉に多く含まれており、抗酸化作用が高く、ヒトに対して疲労回復効果、認知機能のサポート効果がある注目されている機能性成分である。
そこで、「はかた地どり」のムネ肉のIDP含量を測定し、ブロイラーの1.4倍量が含まれることを明らかにした。また、年間を通じてIDP含量が安定しており、ムネ肉の調理法によってその含量が変化することを明らかにした。
一方で、平成27年4月に消費者庁で新しく「機能性表示食品」制度が定められた。「機能性表示食品」とは、食することで何らかの健康の維持や増進に役立つことが期待できる食品のことである。そこで、IDPの研究で得られた成果を基に消費者庁へ届け出を行い、令和元年9月に「機能性表示食品」として受理され、肉類では日本初の機能性表示食品となった。
届け出た商品名は「はかた地どり(胸肉)」 、機能性成分は「アンセリン、カルノシン」、「加齢により衰えがちな認知機能の一部(記憶力)をサポートする」効果があることを表示できるようになり、「機能性表示食品」として令和元年11月から販売を開始している。

4.今後の展望
昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、「はかた地どり」も外食を中心に消費が落ちている状況にある。現在、試験場では、「はかた地どり」の販売業者とのIDPを活かした加工品の共同開発、低コスト化とうまみ成分の向上を両立する飼養方法の開発について取組んでおり、今後も「はかた地どり」の生産・販売強化につながる研究を行いたい。