日本畜産学会第128回大会

講演情報

公開シンポジウム

市民公開シンポジウム1
地球温暖化:暑熱ストレスによる家畜・家禽の生産性低下の科学的理解と対応策の展望」

2021年3月28日(日) 13:00 〜 15:00 ライブ配信

座長:豊後 貴嗣(広大院生物圏)、Vishwajit Sur Chowdhury(九州大学基幹研究院)

後援:伊藤記念財団助成
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パスコード:328942

[CPS1-03] 現代ブロイラーの暑熱対策と生菌剤を用いた夏場生産性の改善

〇山下 祐樹1 (1.株式会社ジャパンファーム)

地球温暖化は世界が直面している最も深刻な環境問題の1つですが、養鶏業界にとっても深刻な問題となっています。当社は鹿児島県の右側に位置する大隅半島に多くの農場があり、本県の年間平均気温は全国2位となっている。

2000年以降の最高気温の推移は上昇傾向にあり、昨年2020年8月の最高平均気温は33.5℃を記録した。猛暑による暑熱ストレスは鶏の育成、増体に大きく関与し、生産性に大きな影響を与える。

近年のブロイラーは育種改良、飼料の改善により高増体になっている。ブロイラーは代謝エネルギーの約75%を熱として体外へ放出する。成長が早く産肉性に優れた現代ブロイラーは熱を適切に取り除くことにより生産性が上がるため、暑熱からのストレスを除くことが好成績につながる。

養鶏での暑熱対策は大きく分けて5種類に分類でき、①夏場の収容羽数を減らす(坪羽数の減)②舎外からの侵入熱を防ぐ③斜内での風速を増す④細霧、ミスト等による気化熱の利用、スプリンクラー、ホース等での直接の鶏体散水等の水利用⑤飼料配合の変更、添加剤の投入、飲水がある。これらの対応は単体で行うのではなく①~⑤の対応全てを行い、対応策を重ねることにより効果は間違いなくあがる。

今回は生産性向上を目的に行っていた添加剤試験が結果として暑熱対策の可能性があることをいうことで紹介をしたい。

生産性向上で一番重要なことはコストの半分以上を占める飼料コストを下げることである。飼料コストを下げるには飼料の主原料となるトウモロコシや大豆の価格を下げることであるがほとんどを輸入に頼っている日本ではこの価格をコントロールすることは出来ない。したがって同じ鶏の大きさにする時に食べさせる飼料量を減らすことが重要で飼料要求率(通称FCR:feed conversion ratio)を下げる取り組みを行っている。

当社の考えとしてFCRを下げるには初期の発育を最高の状態で迎えた上で、腸管の健康が重要であり、生菌剤は腸管の健康に貢献できると考えている。

初期の発育状態の確認のために入雛時の雛重量と1週間後の重量が4.5倍以上になっていることを良い状態の基準としている。この基準を満たすことで腸管の長さは基準以下と差がでる。腸管が長いことで飼料の吸収量も増えその後の生産性が向上する。実際に雛重量倍率と育成率には相関があり、夏場はそれ以外の季節より特に相関が強い。しかし当社での雛重量倍率の4.5倍達成率は年間平均50%を下回っている。

当社ではアサヒバイオサイクル㈱の枯草菌「カルスポリン」を添加している。過去の試験においてカルスポリンの添加区と非添加区で優位に生産性が向上した。アサヒバイオサイクルとは当社の課題である雛重量の4.5倍を達成するため、4週令以降での減耗率の改善を目的に飼育管理、添加剤の改善について共同での取り組みを実施している。取り組みの中で各週令での糞便中の腸内細菌叢を調査した結果、当社は入雛して3日以内に大腸菌群が通常より高い傾向があった。当社の農場どの農場でも初期より高い傾向が見られた。そこで腸内細菌叢を整えるためにアサヒバイオサイクルより発売されている乳酸菌「ファインラクト」をストレスのかかりやすい時期に飲水投与させることとした。2019年の夏に夏型鶏舎である縦換気の農場で雛用ファインラクトと成鶏用ファインラクトの添加試験を実施した。3日令での腸内細菌叢は添加区が良い状態ではなかったが、16日令36日令ではよい状態となり生産性は優位性が付かないもののやや良い結果となった。しかし温度の高かった8月の中旬での斃死の推移は試験区が対照区より少ない状況となり暑熱ストレスでの軽減につながった可能性がある。ストレス指標である好気性球菌(レンサ球菌)についても試験区が低く暑熱に対する効果があったと考えられる。ちなみに同時期に試験とは関係のない鶏舎で暑熱ストレスによる斃死が大きく増えたが、その鶏舎ではレンサ球菌が上昇していることが確認できた。このようなことから暑熱対策として添加物ではこれまで使用してきた重曹、クエン酸、ビタミンに加えて生菌剤の可能性を今後も検討する予定である。昨年の夏はコロナ渦の影響もあり試験が出来なかったが、今年の夏は暑熱対策の一つとして生菌剤の試験を行っていく予定である。