[CPS2-05] くまもとの地鶏「天草大王」復元からブランド確立への取組
1 はじめに
熊本県には、江戸から明治時代にかけ作出され、長年親しまれ飼育されてきた「肥後五鶏」(肥後ちゃぼ、熊本種、久連子鶏、地すり、天草大王)と呼ばれる鶏がいた。しかし、養鶏産業の近代化と情勢変化により、昭和初期にはそれらは絶滅もしくは絶滅寸前となった。そのような中、天草地域で多く飼育され、大型で歯ごたえのある肉とうまみを兼ね備えた天草大王を復元し、それを利用した“熊本県ブランドの高品質肉用鶏”を生産したいという関係者の思いが高まり、平成4年に当所の研究員が中心となり天草大王の復元を開始した。
復元は参考となる文献の収集に始まり、綿密な交配・改良計画を立て育種改良を重ねた結果、平成13年10月、約70年ぶりに「原種天草大王」の復元を実現した。それと並行して、ブランド肉用鶏開発のためには欠かせない生産効率向上を目的として雌系統の造成を行い、平成13年に「九州ロード」が完成。復元した天草大王と九州ロードを活用した“くまもとの地鶏「天草大王」”の生産が平成15年6月から始まった。それから17年が経過し、一定の生産量を維持するとともに、ブランド地鶏として定着し現在に至る。
長年にわたり公設試として、育種改良面だけでなく生産性向上を支援する農家指導、飼料給与試験など飼養管理面の研究を通じて、原種の復元からブランド確立に至るまで、当所が果たしてきた役割について紹介する。
2 育種改良面からの取組
(1)原種天草大王の復元
天草大王は中国原産の「ランシャン種」に軍鶏、コーチンを交配して改良された大型の鶏と推察されたことから、平成4年に基礎鶏となるランシャン種をアメリカ合衆国から無鑑別雛で100羽輸入した。さらに、福岡・熊本県内で保有されていた「大軍鶏」と、「熊本コーチン(在来種「熊本種」を当所で大型に改良)」をランシャンとそれぞれ交配したF1を第1世代とし、閉鎖群育種を7世代7年間繰り返した結果、残存していた写真や油絵に描かれた天草大王とそっくりの姿形で、平均体重雄5.3kg、雌4.4kg、最大で雄6.7kg、雌5.6kgと、文献に残る記録と同等となり、復元を完成した。
(2)九州ロードの造成
原種天草大王同士の交配による肉用鶏雛生産は効率が悪いため、平成6年から大型で産卵能力の高い雌系統の造成を開始した。本県所有のロードアイランドレッド種「熊本ロード」に家畜改良センター兵庫牧場の「白色プリマスロック種13系統」を交配し、系統の集団を大きくし、選抜圧を高めるため、宮崎、大分、熊本の三県共同で種卵を交換する方法で系統造成を行い完成した。
(3)高病原性鳥インフルエンザなど伝染病発生に備えた遺伝資源保存
原種天草大王は種卵分散保管、農業高校での分散飼育、凍結精液保作製、九州ロードは三県共同で系統を維持することで、貴重な種の保存を図っている。
(4)遺伝子育種による改良
平成28年から秋田県を中核機関とした「地鶏改良コンソーシアム」に参画し、農研機構畜産研究部門の支援のもとコレシストキニンA受容体遺伝子を優良型に固定するゲノム育種手法により天草大王の増体性改良を実施し、食味性向上が期待されるアラキドン酸増強遺伝子の固定・改良にも取組んでいる。
3 飼養管理面からの取組
(1)飼料給与技術の開発
「肉用鶏天草大王」生産開始以降、当所では出荷成績や品質のばらつきを低減し、ブランド力強化につなげるため、飼料用米(籾米)給与法、国内ハラール認証出荷に必要なハラール用飼料、アミノ酸調整飼料の給与等が発育や肉質に及ぼす影響を調査研究し、最適な飼料体系確立に取り組んでいる。
(2)飼育管理技術の指導
当所は、生産者を主体として官民一体で構成する「熊本県高品質肉鶏推進協議会」の賛助会員として、生産農場の巡回を実施し、飼育環境や飼養鶏の発育状況データの蓄積・フィードバックを継続して行っている。実際に同じ天草大王を飼育する当所の研究員は、生産者にとって飼養管理に関する身近な相談相手として存在感を示している。
4 おわりに
ブランド地鶏を取り巻く情勢は、消費低迷・家畜防疫対策など厳しさを増しているが、先輩研究員諸氏が築いた功績を大切にするとともに、本県の主要な農業施策である「稼げる農業」を目指し、くまもとの地鶏「天草大王」生産者の所得向上・生産振興のため今後も技術開発の面から貢献していきたい。
熊本県には、江戸から明治時代にかけ作出され、長年親しまれ飼育されてきた「肥後五鶏」(肥後ちゃぼ、熊本種、久連子鶏、地すり、天草大王)と呼ばれる鶏がいた。しかし、養鶏産業の近代化と情勢変化により、昭和初期にはそれらは絶滅もしくは絶滅寸前となった。そのような中、天草地域で多く飼育され、大型で歯ごたえのある肉とうまみを兼ね備えた天草大王を復元し、それを利用した“熊本県ブランドの高品質肉用鶏”を生産したいという関係者の思いが高まり、平成4年に当所の研究員が中心となり天草大王の復元を開始した。
復元は参考となる文献の収集に始まり、綿密な交配・改良計画を立て育種改良を重ねた結果、平成13年10月、約70年ぶりに「原種天草大王」の復元を実現した。それと並行して、ブランド肉用鶏開発のためには欠かせない生産効率向上を目的として雌系統の造成を行い、平成13年に「九州ロード」が完成。復元した天草大王と九州ロードを活用した“くまもとの地鶏「天草大王」”の生産が平成15年6月から始まった。それから17年が経過し、一定の生産量を維持するとともに、ブランド地鶏として定着し現在に至る。
長年にわたり公設試として、育種改良面だけでなく生産性向上を支援する農家指導、飼料給与試験など飼養管理面の研究を通じて、原種の復元からブランド確立に至るまで、当所が果たしてきた役割について紹介する。
2 育種改良面からの取組
(1)原種天草大王の復元
天草大王は中国原産の「ランシャン種」に軍鶏、コーチンを交配して改良された大型の鶏と推察されたことから、平成4年に基礎鶏となるランシャン種をアメリカ合衆国から無鑑別雛で100羽輸入した。さらに、福岡・熊本県内で保有されていた「大軍鶏」と、「熊本コーチン(在来種「熊本種」を当所で大型に改良)」をランシャンとそれぞれ交配したF1を第1世代とし、閉鎖群育種を7世代7年間繰り返した結果、残存していた写真や油絵に描かれた天草大王とそっくりの姿形で、平均体重雄5.3kg、雌4.4kg、最大で雄6.7kg、雌5.6kgと、文献に残る記録と同等となり、復元を完成した。
(2)九州ロードの造成
原種天草大王同士の交配による肉用鶏雛生産は効率が悪いため、平成6年から大型で産卵能力の高い雌系統の造成を開始した。本県所有のロードアイランドレッド種「熊本ロード」に家畜改良センター兵庫牧場の「白色プリマスロック種13系統」を交配し、系統の集団を大きくし、選抜圧を高めるため、宮崎、大分、熊本の三県共同で種卵を交換する方法で系統造成を行い完成した。
(3)高病原性鳥インフルエンザなど伝染病発生に備えた遺伝資源保存
原種天草大王は種卵分散保管、農業高校での分散飼育、凍結精液保作製、九州ロードは三県共同で系統を維持することで、貴重な種の保存を図っている。
(4)遺伝子育種による改良
平成28年から秋田県を中核機関とした「地鶏改良コンソーシアム」に参画し、農研機構畜産研究部門の支援のもとコレシストキニンA受容体遺伝子を優良型に固定するゲノム育種手法により天草大王の増体性改良を実施し、食味性向上が期待されるアラキドン酸増強遺伝子の固定・改良にも取組んでいる。
3 飼養管理面からの取組
(1)飼料給与技術の開発
「肉用鶏天草大王」生産開始以降、当所では出荷成績や品質のばらつきを低減し、ブランド力強化につなげるため、飼料用米(籾米)給与法、国内ハラール認証出荷に必要なハラール用飼料、アミノ酸調整飼料の給与等が発育や肉質に及ぼす影響を調査研究し、最適な飼料体系確立に取り組んでいる。
(2)飼育管理技術の指導
当所は、生産者を主体として官民一体で構成する「熊本県高品質肉鶏推進協議会」の賛助会員として、生産農場の巡回を実施し、飼育環境や飼養鶏の発育状況データの蓄積・フィードバックを継続して行っている。実際に同じ天草大王を飼育する当所の研究員は、生産者にとって飼養管理に関する身近な相談相手として存在感を示している。
4 おわりに
ブランド地鶏を取り巻く情勢は、消費低迷・家畜防疫対策など厳しさを増しているが、先輩研究員諸氏が築いた功績を大切にするとともに、本県の主要な農業施策である「稼げる農業」を目指し、くまもとの地鶏「天草大王」生産者の所得向上・生産振興のため今後も技術開発の面から貢献していきたい。