[PPS-03] ”小さく産んで大きく育てる“は間違いか?・・・ヒツジモデルでの試行錯誤・・・
1980年代中頃に、David Barkerらがイングランドとウェールズでの1968-78年における冠動脈性心疾患による死亡率と1901-10年における新生児死亡率の地理的分布に著しい類似性を見出したことをもとに、胎児期の発育停滞が成人後の冠動脈性心疾患の遠因になり得ることを示唆して、初期成長期の栄養制限や発育停滞が成人病の発症率に大きく関わるとするプログラミング仮説(成人病胎児期発症説)を提唱して大きな驚きを持って迎えられた。引き続いて、第二次大戦末期のDutch famine の期間に胎児期を過ごした人々を対象とした疫学研究結果や齧歯類実験動物を用いた妊娠期母獣の低タンパク質給与モデルを用いて産子の成熟後の生理形質を詳細に調査した結果から、プログラミング現象の存在が確認された。様々な動物種や生理的な指標の解析を通して、現在では初期成長期の生育経過がエピジェネティクな調節機構を介して成熟後の代謝生理的な特性(体質)を決定づけているとするDOHaD(Developmental Origins of Health and Diseases)仮説に発展している。これらの考えを取り入れて、妊婦さんの食生活指針や新生児保育に関して主張されてきた“小さく産んで大きく育てる”という考えは、最近では支持されなくなってきたようである。
一方、欧米の畜産研究関係分野においては、プログラミング現象やDOHaD仮説を応用した周産期の栄養管理や哺乳期の栄養条件の改善を通した産子の生産性向上技術の開発に大きな関心と期待が寄せられた。しかしながら、母畜の連産性を損なうことなく、産子の強健性や生産性を高める周産期の飼養技術の革新には至らず、乳用雌子牛の人工哺育育成においては代用乳を増量給与するIntensive milk replacer feedingが哺乳期の事故率の低下や将来の乳生産能力の向上につながることが示されて、実用化されつつある。
演者らは、肉用繁殖牛の連産性を損なわない程度の妊娠後期の栄養制御によって、子牛の生時体重のいたずらな増大を抑制しながら子牛の体質改変を行い、哺育、育成および肥育の過程にわたる飼養技術を工夫することで、肉質面での仕上がりが早く、早期の出荷が可能となるような飼育技術の開発が期待できると考えた。すなわち、“小さく産ませて霜降りに育てる”ような新しい肉牛飼育管理方式である。本シンポジウムでは、1年間で母畜の妊娠後期の栄養制御から産子の成長履歴や生理特性の評価が可能なヒツジモデルを用いて、妊娠後期ないし哺育期の母ヒツジへの給与飼料のエネルギー含量を揃えた上でタンパク質含量を変化させた場合の子ヒツジの発育と生理特性への影響を調べた試行錯誤の結果について紹介する。
本研究の一部は、生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」の支援を受けて実施した。
一方、欧米の畜産研究関係分野においては、プログラミング現象やDOHaD仮説を応用した周産期の栄養管理や哺乳期の栄養条件の改善を通した産子の生産性向上技術の開発に大きな関心と期待が寄せられた。しかしながら、母畜の連産性を損なうことなく、産子の強健性や生産性を高める周産期の飼養技術の革新には至らず、乳用雌子牛の人工哺育育成においては代用乳を増量給与するIntensive milk replacer feedingが哺乳期の事故率の低下や将来の乳生産能力の向上につながることが示されて、実用化されつつある。
演者らは、肉用繁殖牛の連産性を損なわない程度の妊娠後期の栄養制御によって、子牛の生時体重のいたずらな増大を抑制しながら子牛の体質改変を行い、哺育、育成および肥育の過程にわたる飼養技術を工夫することで、肉質面での仕上がりが早く、早期の出荷が可能となるような飼育技術の開発が期待できると考えた。すなわち、“小さく産ませて霜降りに育てる”ような新しい肉牛飼育管理方式である。本シンポジウムでは、1年間で母畜の妊娠後期の栄養制御から産子の成長履歴や生理特性の評価が可能なヒツジモデルを用いて、妊娠後期ないし哺育期の母ヒツジへの給与飼料のエネルギー含量を揃えた上でタンパク質含量を変化させた場合の子ヒツジの発育と生理特性への影響を調べた試行錯誤の結果について紹介する。
本研究の一部は、生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」の支援を受けて実施した。