The 71th Annual Meeting of JSFST

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Symposia

シンポジウムC

[SC2] シンポジウムC2

Sat. Aug 31, 2024 2:15 PM - 5:00 PM Room S1 (2F 201)

世話人:高橋 正和(福井県立大学)、岩本 悟志(岐阜大学)

3:20 PM - 3:50 PM

[SC2-03] Development of cultivated meat through tissue engineering

*Ai Shima1 (1. Graduate School of Information Science and Technology, The University of Tokyo)

Keywords:Skeletal muscle, Primary cells, Three-dimensional tissue, Hollow fiber

    【講演者の紹介】
    島 亜衣(しま あい)
    略歴: 2006年東京大学教養学部卒業, 2011年東京大学大学院総合文化研究科修了. 博士(学術). 2019年より東京大学大学院情報理工学系研究科の特任助教として、組織工学による大型筋組織の構築や培養肉の研究に従事.

 近年,ウシやニワトリなどの肉から細胞を単離して培養し,大量に増やした細胞を材料にして作製する「培養肉(Cultivated meat)」が注目を集めている.広大な土地や大量の水を必要とし,温室効果ガスの排出が多い現行の大規模畜産に対して,培養肉は環境負荷が小さいと試算されており,持続可能な次世代の食肉生産方法として期待されている.一方で,単離した筋細胞を食べられる条件で安全かつ効率的に増やすこと,生体の骨格筋組織と同等の分厚い組織を作ることは容易ではなく,様々な課題が存在する.これまでに,世界ではいくつかのスタートアップ企業が培養肉の作製を発表したり,発売を開始したりしているが,骨格筋細胞に比べて増殖が容易な線維芽細胞(本来の肉=骨格筋を構成する主たる細胞種ではない)や,細胞が接着する足場素材としての植物性タンパク質を多く含んでいると見られており,生体の骨格筋そのものである従来の食肉の再現には至っていない.
 私たち,東京大学・竹内研究室では,「培養ステーキ肉」の開発に取り組んでいる.私たちの考える培養ステーキ肉とは,一方向に並んだ筋線維を有する,センチメートル単位の大きさと厚みを持つ組織である.筋細胞は,平面の培養皿や三次元足場に播種しただけでは,筋線維の方向がそろわず,それぞれバラバラの向きに並ぶ.これはいわばミンチ肉のような状態であり,このような培養肉を培養ミンチ肉とも呼ぶ.筋線維を一方向に並べることは,肉らしい歯ごたえを生むのに重要と考えられるほか,生体に近い構造を作ることで,味や栄養素が従来の肉に近づくことを期待している.このように,生体に似せた三次元組織を作製する研究分野を「組織工学」と呼び,近年は薬剤スクリーニングのための生体模倣システムや再生医療分野などでも活用されている.私たちはこれまで,分厚い培養ステーキ肉を実現するために,組織工学的手法の二つの異なるアプローチを試みた.一つは,薄いシート状の筋組織を作製後,これを積層して厚い組織を構築するボトムアップ的方法であり,もう一つは予め作製した大型組織内に中空糸ファイバを用いた人工的な血管構造を配置するトップダウン的方法である.これらはいずれも,分厚い組織内部へ酸素や栄養素を供給し,組織の壊死を防ぐための工夫であり,いずれの方法においても,センチメートルオーダの骨格筋組織塊を作ることに成功している.本講演ではこれらの培養ステーキ肉構築方法と作製された筋組織の解析結果について紹介し,今後の培養肉開発の展望について述べる.