3:50 PM - 4:20 PM
[SC2-04] Food Tech with 3D Printing Technology
Keywords:Cell-based foods, Cultured meat, Protein crisis, 3D Printing, BioInk
【講演者の紹介】兒玉賢洋 (こだまよしひろ):TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 総合研究所 課長 略歴:2006年凸版印刷株式会社入社, 総合研究所に所属し医療・ライフサイエンス系の研究揮発に従事. 2013年~2021年国立感染症研究所協力研究員, 2016年~2018年理化学研究所協力研究員兼務. 2023年より大阪大学培養肉社会実装共同研究講座招へい研究員. 2023年TOPPANホールディングスへの社名変更.
近年,3Dプリント技術が進展し,低コストかつ簡便に様々な材料を自在に造形することができるようになってきている.工業分野で使用されている3Dプリンターでは,樹脂や金属をインク材料として積層し任意の形状を形成することができるためラピッドプロトタイピングなどに広く用いられている.同様にバイオ領域では,生体適合性材料や細胞を適切な溶液と合わせたバイオインクにし,それらを3Dプリンターで吐出することで細胞塊の作製や臓器を再現する試みなどが行われている.その際細胞は,その機能を維持するために液中で搬送されることが望ましい.しかしながら,ただ単純に細胞を3Dプリンターを用いて液中に吐出した場合,時間の経過とともに細胞は拡散もしくは沈降してしまい任意の形状に留めることは難しい.そこで組織工学の分野では,バイオインクと反応する液体やゲル中に吐出し造形することで,より複雑な構造を再現することや柔らかな組織を構築する新たな技術の検討が日々進められている.
組織工学分野での3Dプリンターを用いた検討の多くは,医療用途を想定しヒトやマウスの細胞を対象として進められてきた.これらの技術をウシやブタなどの食品としてなじみのある動物の細胞に展開していくことで,食品の分野に広げることができる.例えば,牛肉から筋細胞への分化能を持つサテライト細胞や脂肪由来幹細胞を回収し,各々の細胞を3Dプリンターで成形した後に細胞の分化を誘導することで筋組織(赤身)や脂肪組織(脂身)を作製することが可能である.実際に,これまでの研究開発において,これらの筋組織や脂肪組織を実際の肉の組織学的な配置パターンを模倣して組み合わせることで,ステーキ肉を再現した細胞性牛肉を作製することに成功している.
このような3Dプリント技術を用いた細胞性牛肉の特徴の一つとして,赤身や脂身の配分を自由に設計できる点が挙げられる.これによって,霜降りの肉を再現することや,タンパク質の多い健康志向の肉質をデザインすることができる.また,一連の手法は赤身と脂肪の比率を変更するだけではなく,食感を自由に調整する技術としても期待される.具体的には,脂肪酸の構成比を調整することで融点の異なる脂肪組織や,細胞密度の異なる筋組織をラインナップとして拡充させることで,口溶けや噛み応えを設計することができる.本シンポジウムにおいては,実際にバイオインクの設計を変更することで,ファイバー状に作製された筋組織の太さや密度などが変化する様子についても紹介したい.
このように3Dプリント技術を用いて作製される細胞性牛肉は,「肉質をデザインできること」が特徴の一つであり,従来の畜産によって提供される食肉ともまた違った食の楽しみを消費者に届けることができると考えられる.加えてこれらの手法は,細胞と培地さえあれば世界中どこでも作製でき,食料不足の問題や環境負荷への対策として大きな貢献ができることも魅力の一つである.
近年,3Dプリント技術が進展し,低コストかつ簡便に様々な材料を自在に造形することができるようになってきている.工業分野で使用されている3Dプリンターでは,樹脂や金属をインク材料として積層し任意の形状を形成することができるためラピッドプロトタイピングなどに広く用いられている.同様にバイオ領域では,生体適合性材料や細胞を適切な溶液と合わせたバイオインクにし,それらを3Dプリンターで吐出することで細胞塊の作製や臓器を再現する試みなどが行われている.その際細胞は,その機能を維持するために液中で搬送されることが望ましい.しかしながら,ただ単純に細胞を3Dプリンターを用いて液中に吐出した場合,時間の経過とともに細胞は拡散もしくは沈降してしまい任意の形状に留めることは難しい.そこで組織工学の分野では,バイオインクと反応する液体やゲル中に吐出し造形することで,より複雑な構造を再現することや柔らかな組織を構築する新たな技術の検討が日々進められている.
組織工学分野での3Dプリンターを用いた検討の多くは,医療用途を想定しヒトやマウスの細胞を対象として進められてきた.これらの技術をウシやブタなどの食品としてなじみのある動物の細胞に展開していくことで,食品の分野に広げることができる.例えば,牛肉から筋細胞への分化能を持つサテライト細胞や脂肪由来幹細胞を回収し,各々の細胞を3Dプリンターで成形した後に細胞の分化を誘導することで筋組織(赤身)や脂肪組織(脂身)を作製することが可能である.実際に,これまでの研究開発において,これらの筋組織や脂肪組織を実際の肉の組織学的な配置パターンを模倣して組み合わせることで,ステーキ肉を再現した細胞性牛肉を作製することに成功している.
このような3Dプリント技術を用いた細胞性牛肉の特徴の一つとして,赤身や脂身の配分を自由に設計できる点が挙げられる.これによって,霜降りの肉を再現することや,タンパク質の多い健康志向の肉質をデザインすることができる.また,一連の手法は赤身と脂肪の比率を変更するだけではなく,食感を自由に調整する技術としても期待される.具体的には,脂肪酸の構成比を調整することで融点の異なる脂肪組織や,細胞密度の異なる筋組織をラインナップとして拡充させることで,口溶けや噛み応えを設計することができる.本シンポジウムにおいては,実際にバイオインクの設計を変更することで,ファイバー状に作製された筋組織の太さや密度などが変化する様子についても紹介したい.
このように3Dプリント技術を用いて作製される細胞性牛肉は,「肉質をデザインできること」が特徴の一つであり,従来の畜産によって提供される食肉ともまた違った食の楽しみを消費者に届けることができると考えられる.加えてこれらの手法は,細胞と培地さえあれば世界中どこでも作製でき,食料不足の問題や環境負荷への対策として大きな貢献ができることも魅力の一つである.