国際開発学会第34回全国大会

講演情報

一般口頭発表

教育(日本語)

2023年11月11日(土) 09:30 〜 11:30 紀-B104 (紀尾井坂ビルB104)

座長:小川 啓一(神戸大学) コメンテーター:坂上 勝基(神戸大学)、黒田 一雄(早稲田大学)

09:30 〜 10:00

[1C01] ケニア農村部の初等教育の公正性と包摂性―公立と私立の二項対立分析の再考

*西村 幹子1 (1. 国際基督教大学)

キーワード:初等教育、ケニア、私立教育、公正性、包摂性

すべての人に公正で包摂的な質の高い教育を保障することを謳った持続可能な開発目標(SDGs)は、理念としては普遍的価値をもちうるものの、可視化することが難しい。特に、教育の公正性や包摂性の議論の中でよく取り上げられる議題に、低額私立校の台頭という課題がある。低額私立校が急増が格差拡大につながるとする論文や(例えばUNESCO, 2021)、私立校がいかに貧困層の需要と合致しているかを説明する論文が、主にサブサハラアフリカ地域や南アジア地域で過去20年間に多く出版されてきた(例えばDixson, 2013; Oketch, 2010; Tolley, 2013)。
 本報告は、公正性と包摂性という観点から、私立校、公立校という二項対立的な見方を超えた意味を再考することで、貧しいながらも私立校を選択する意味を理解することを目的とする。具体的には、ケニア農村部で実施した4校の公立校および2校の私立校における調査を基に、公正性と包摂性が学校教育現場でどのように捉えられているのか、特に低額私立校が持つ意味についての仮説を報告する。調査結果から、校長や教員の背景にある考え方や経験、マサイ族の文化、地域との関係性に依っており、必ずしも私立校、公立校という二項対立軸で捉えられるものではないこと、私立校が公立校よりも雇用促進や現物支給、仕入れなどによって実質的に地元の経済にも貢献し地域に根差している場合があることが分かった。すなわち、私立校が市場メカニズムだけでなく、コミュニティとの関係性や学校創立者への信頼によって機能していることを示唆している。公正性と包摂性を公立、私立ではなく、コミュニティを単位とした軸で捉え直すと、新自由主義と社会民主主義といった二項対立的な理論的枠組みを超えた、地域の実情に合わせた新たな視点が提示されるのではないか。

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