[CPS1-01] 飼料給与面からの肥育豚における暑熱対策
1.はじめに
地球温暖化は年々進行しており、畜産では死亡頭数の増加や飼料摂取量の低下、繁殖障害等様々な影響の増加が懸念されることから、暑熱対策技術の確立は喫緊の課題となっている。
豚は汗腺を持たないため、発汗による体温調節が困難であり、夏季の温度上昇の影響を受けやすく、食欲低下による出荷日齢の遅延や豚肉の品質低下など、生産性の低下が顕著になる。また、暑熱環境下では、飼料摂取量の低下とともに負のエネルギーバランスが生じ、酸化ストレスの亢進により筋肉合成が抑制され、背脂肪厚が肥大し脂肪蓄積が増加する報告があり、収益の確保の点からも改善する必要がある。
こうした中、一般的な暑熱対策としては、送風機や細霧を用いる等の畜舎環境からの改善策が取り組まれているが、地球温暖化の進行に伴い、夏季の温度上昇が顕著になっていることから、畜舎環境だけではなく飼料給与面も含めた総合的なアプローチが求められる。
そこで、佐賀県畜産試験場では、暑熱による酸化ストレスを抑制し飼養成績を改善することを目的として、飼料給与面からの暑熱対策技術の開発に取り組んだので紹介する。
2.地域資源飼料(エコフィード)について
配合飼料価格の高騰対策や安全な食料提供を目的とした飼料の自給率向上のため、食品系の残さを地域資源飼料(エコフィード)として利用する取組が推進されている。その中で、暑熱ストレスの抑制効果が高い抗酸化物質を豊富に含む機能性成分を含んだエコフィードとして、茶葉と焼酎粕を選定して技術開発に取り組んだ。
3.製茶加工残さを利用した枝肉成績改善技術
茶葉は、加工工程で製茶機械に付着した残さ(製茶加工残さ)を使用した。製茶加工残さは、ジュース工場でドリップ後に排出される茶粕がカテキン類等の水溶性成分が減少するのに対して茶葉の製造工程で発生する残さであり、カテキン類等の機能性成分ははそのまま残留する。
カテキン類の特性を活かして、発育成績に影響せず、背脂肪の蓄積を抑える最適添加割合を場内試験で調査した結果、トウモロコシ主体の市販飼料に肥育前期に2%、肥育後期に1%の割合で添加すると発育成績に影響せず、背脂肪厚肥大が抑制できた。また、県内生産現場で夏季の肥育豚への給与試験を行い枝肉成績の調査をした結果、背脂肪厚肥大抑制により上物頭数割合が増加した。
さらに、国産飼料原料の利活用促進を目的として、農水省委託プロジェクト研究 「自給飼料多給による高付加価値豚肉生産技術の開発」において、飼料用米(玄米)および大麦との組合せ技術を確立するために、飼料用米40%、大麦15%を配合した肥育後期飼料に製茶加工残さ1%を添加した飼料を利用して、県内生産現場で夏季の肥育豚への給与試験を実施した。その結果、枝肉成績では背脂肪厚は慣行区に対して試験区が薄くなり、上物頭数割合が高くなったことから、飼料用米主体の飼料においても同様な効果が得られることが確認された。
4.焼酎粕や必須アミノ酸を利用した発育、肉質成績改善技術
夏季のストレス条件では肉質にも影響を及ぼすため、地域飼料資源として、ポリフェノールやα-トコフェロール等の機能性成分を含んだ焼酎粕に注目して、農水省委託プロジェクト研究「温暖化の進行に適応する畜産の生産安定技術の開発」において、発育、肉質成績を改善する技術開発に取り組んだ。
まず、場内試験でトウモロコシ主体の飼料に乾燥芋焼酎粕を添加給与する肥育試験を行った結果、4%添加給与することで遊離アミノ酸であるグルタミン酸濃度が増加する等の肉質改善効果の可能性が確認された。
しかし、芋焼酎粕の添加のみでは発育成績の改善には至らなかったため、芋焼酎粕と農研機構で開発を進めたアミノ酸強化飼料の技術を組み合わせて、県内生産現場で夏季の肥育豚への給与試験を行った。
供試飼料は、トウモロコシを主体に肥育後期用に調整した対照飼料(対照区)、これに乾燥芋焼酎粕と4種の必須アミノ酸(リジン、トレオニン、メチオニン及びトリプトファン)を添加した試験飼料(試験区)の2種類とした。発育成績は両区の間で統計的に有意な差はみられなかったが、飼料要求率が試験区で低い値となった。肉質成績は、24時間後のドリップロスが対照区に比して試験区で低くなった。
5.技術の普及と今後の方向性について
紹介した技術のうち、アミノ酸強化飼料については、平成30年度から佐賀県内の生産現場(JAさが養豚部会)で利用が開始されており、供給実績は平成30年度258t、令和元年度392t及び令和2年度522tと年々増加している。
今後は、機能性成分による豚肉の保水性改善効果の作用機序を明らかにするとともに、豚肉の付加価値を高めて輸入畜産物との差別化を図り、資源循環型社会の形成による地域全体の収益向上につながる技術確立を進めていく必要がある。
地球温暖化は年々進行しており、畜産では死亡頭数の増加や飼料摂取量の低下、繁殖障害等様々な影響の増加が懸念されることから、暑熱対策技術の確立は喫緊の課題となっている。
豚は汗腺を持たないため、発汗による体温調節が困難であり、夏季の温度上昇の影響を受けやすく、食欲低下による出荷日齢の遅延や豚肉の品質低下など、生産性の低下が顕著になる。また、暑熱環境下では、飼料摂取量の低下とともに負のエネルギーバランスが生じ、酸化ストレスの亢進により筋肉合成が抑制され、背脂肪厚が肥大し脂肪蓄積が増加する報告があり、収益の確保の点からも改善する必要がある。
こうした中、一般的な暑熱対策としては、送風機や細霧を用いる等の畜舎環境からの改善策が取り組まれているが、地球温暖化の進行に伴い、夏季の温度上昇が顕著になっていることから、畜舎環境だけではなく飼料給与面も含めた総合的なアプローチが求められる。
そこで、佐賀県畜産試験場では、暑熱による酸化ストレスを抑制し飼養成績を改善することを目的として、飼料給与面からの暑熱対策技術の開発に取り組んだので紹介する。
2.地域資源飼料(エコフィード)について
配合飼料価格の高騰対策や安全な食料提供を目的とした飼料の自給率向上のため、食品系の残さを地域資源飼料(エコフィード)として利用する取組が推進されている。その中で、暑熱ストレスの抑制効果が高い抗酸化物質を豊富に含む機能性成分を含んだエコフィードとして、茶葉と焼酎粕を選定して技術開発に取り組んだ。
3.製茶加工残さを利用した枝肉成績改善技術
茶葉は、加工工程で製茶機械に付着した残さ(製茶加工残さ)を使用した。製茶加工残さは、ジュース工場でドリップ後に排出される茶粕がカテキン類等の水溶性成分が減少するのに対して茶葉の製造工程で発生する残さであり、カテキン類等の機能性成分ははそのまま残留する。
カテキン類の特性を活かして、発育成績に影響せず、背脂肪の蓄積を抑える最適添加割合を場内試験で調査した結果、トウモロコシ主体の市販飼料に肥育前期に2%、肥育後期に1%の割合で添加すると発育成績に影響せず、背脂肪厚肥大が抑制できた。また、県内生産現場で夏季の肥育豚への給与試験を行い枝肉成績の調査をした結果、背脂肪厚肥大抑制により上物頭数割合が増加した。
さらに、国産飼料原料の利活用促進を目的として、農水省委託プロジェクト研究 「自給飼料多給による高付加価値豚肉生産技術の開発」において、飼料用米(玄米)および大麦との組合せ技術を確立するために、飼料用米40%、大麦15%を配合した肥育後期飼料に製茶加工残さ1%を添加した飼料を利用して、県内生産現場で夏季の肥育豚への給与試験を実施した。その結果、枝肉成績では背脂肪厚は慣行区に対して試験区が薄くなり、上物頭数割合が高くなったことから、飼料用米主体の飼料においても同様な効果が得られることが確認された。
4.焼酎粕や必須アミノ酸を利用した発育、肉質成績改善技術
夏季のストレス条件では肉質にも影響を及ぼすため、地域飼料資源として、ポリフェノールやα-トコフェロール等の機能性成分を含んだ焼酎粕に注目して、農水省委託プロジェクト研究「温暖化の進行に適応する畜産の生産安定技術の開発」において、発育、肉質成績を改善する技術開発に取り組んだ。
まず、場内試験でトウモロコシ主体の飼料に乾燥芋焼酎粕を添加給与する肥育試験を行った結果、4%添加給与することで遊離アミノ酸であるグルタミン酸濃度が増加する等の肉質改善効果の可能性が確認された。
しかし、芋焼酎粕の添加のみでは発育成績の改善には至らなかったため、芋焼酎粕と農研機構で開発を進めたアミノ酸強化飼料の技術を組み合わせて、県内生産現場で夏季の肥育豚への給与試験を行った。
供試飼料は、トウモロコシを主体に肥育後期用に調整した対照飼料(対照区)、これに乾燥芋焼酎粕と4種の必須アミノ酸(リジン、トレオニン、メチオニン及びトリプトファン)を添加した試験飼料(試験区)の2種類とした。発育成績は両区の間で統計的に有意な差はみられなかったが、飼料要求率が試験区で低い値となった。肉質成績は、24時間後のドリップロスが対照区に比して試験区で低くなった。
5.技術の普及と今後の方向性について
紹介した技術のうち、アミノ酸強化飼料については、平成30年度から佐賀県内の生産現場(JAさが養豚部会)で利用が開始されており、供給実績は平成30年度258t、令和元年度392t及び令和2年度522tと年々増加している。
今後は、機能性成分による豚肉の保水性改善効果の作用機序を明らかにするとともに、豚肉の付加価値を高めて輸入畜産物との差別化を図り、資源循環型社会の形成による地域全体の収益向上につながる技術確立を進めていく必要がある。