日本畜産学会第128回大会

講演情報

若手奨励・男女共同参画推進委員会主催シンポジウム

畜産学の未来を支える若手研究者のキャリアパス

主催:(公社)日本畜産学会 若手奨励・男女共同参画推進委員会

[GSY-01] ウシの鳴き真似をするイノシシとかけて男女共同参画社会ととく、どちらも"進もうとしている"(Susモーとしている)。

〇石原 慎矢1 (1.日本獣医生命科学大学)

演者は2015年から2020年にかけてベトナムとの共同研究である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「ベトナム在来ブタ資源の遺伝子バンクの設立と多様性維持が可能な持続的生産システムの構築」にポスドクとして主体的に携わってきた。また、演者は上記のSATREPSプログラムへの参加中に第一子(2021年1月時点で2歳)を授かった。近年の若い世代に多く見られるのと同様に、演者の家庭は夫婦フルタイムで共働きをしている。当然、家事・育児は均等(と演者は考えている)に夫婦で分担している。このことは、お互いのキャリア・時間を尊重するのと同時に十年後、二十年後の演者の家庭内での立場を維持する上で必要不可欠である。何より育児の時間はあっという間に成長する子供と少しでも長く過ごすための貴重な時間である。そのため、研究の時間、育児の時間をそれぞれいかに確保するかが重要な課題である。今回の発表ではベトナムでの研究の内容を簡単に紹介するとともに、同時進行で発生した育児について、一般論の域は出ないが演者の家庭の事例を紹介する。

上記のプログラムが実施された背景にはベトナム在来豚の減少がある。ベトナムには国立畜産研究所によって26の在来豚品種が報告されている。しかしながら、経済発展に伴う西洋豚品種の導入によりいくつかの在来品種は絶滅、あるいは絶滅の危機に瀕している。これらの在来品種は貴重な遺伝資源であるにも関わらず十分な管理・保全は行われていない。演者はこのプログラムにおいて、貴重な遺伝資源であるベトナム在来豚の保存を目的とし、ベトナム在来豚の基礎情報の収集、データベースの構築および遺伝的系統解析を行った。さらに、ベトナム在来豚を医療用モデルとして利用する可能性を検討するため、ブタ内在性レトロウイルス(PERV)の特性を明らかにすることを目的に研究に従事した。まず、ハノイの国立畜産研究所を拠点として、ベトナム現地におけるフィールドワークを通じて在来豚の特性評価データおよび生体からのサンプルの収集を行った。サンプリングは在来豚が多く報告されている山村地域、合計22省を対象として行われた。サンプリングがひと段落した後、得られた特性評価データおよびDNAを使用して外貌的特徴に基づいた形質データ解析、SNP解析および次世代シークエンサーを用いた全ゲノム解析など国内での研究に従事した。また、これらの研究で得られた結果の一部として、ベトナム在来豚のPERVはゲノム中のコピー数が西洋豚と比べて低いこと、全ゲノムデータを用いたリファレンスゲノム上にないPERVのゲノム座位の検索法については本学会でも報告してきた。これらの研究を遂行のためには当然海外出張が伴った。特に、2015-2017年の3年間は2週間から1ヶ月程度のベトナム出張が何度かあった。幸い子供が生まれたのはサンプリングがひと段落した後であり、2週間以上の出張はなかった(職場の理解が大きかった)。

演者の家庭において、共働き家庭において保育園が担ってくれる育児の比重は大きい。しかしながら2020年には緊急事態宣言もあり保育園も休園した。その際、在宅勤務が1ヶ月ほど続いた時は極力家事・育児にかかる時間の短縮化、負担の軽減を目的として、いくつかのシステムの導入を検討した。特に顕著な効果が実感できたのは食器洗い乾燥機、ドラム式洗濯機および、生協を利用した食品の配送である。例えば食器洗い1食分10分とすると365日3食で年間計182.5時間かけていることになる。もちろん平日は昼食分の食器洗いはないことも多いが、食器洗い乾燥機の導入によってこれらの時間を大きく削減することが可能となる。また、平日は基本的に保育園があることから朝の準備が慌ただしくなり、また洗濯物も増える。洗濯物を干すわずかな時間をドラム式洗濯機により削減できること、天候に左右されないことは非常に大きなメリットである。上記のように家事にかかる時間を削減しても、子供が起きている時は遊び相手を務める必要があったため、夫婦で交代しながら遊び、お昼寝中、あるいは夜寝てから仕事をするなどした。保育園再会後も家電や生協による時間削減は有効的に活用できている。

育児と研究の両立は家庭や研究内容によって状況が全く違ってくるため、一概にまとめることはできないが、家電や生協を使うことである程度の家事時間削減し研究や他のことに時間を充てることは可能であった。また、どのような環境であれ、職場の育児への理解は重要である。将来的に、家庭内に不和が生じないようにするためにも可能な限り育児家事の分担しつつ研究を進めていきたい。