[SSY1-03] 肉用牛におけるエコフィードの利用-近畿地方の事例と研究成果-
1. はじめに
わが国の畜産は、2014年度概算で濃厚飼料の86%を輸入飼料に依存する他、粗飼料についても少なくない量
を輸入に頼っている。この構造は飼料価格がおしなべて安い場合、あるいは代替飼料が容易に手に入る状況で
は、畜産経営において利潤を生みやすいが、飼料価格が高い場合は経営を極度に圧迫する不安定因子とな
る。特に近年は、根底にある世界的な畜産物の需要増に加えて、石油価格の乱高下、飼料作物資源をめぐるバ
イオエタノール・バイオジーゼル仕向けとの競合、オーストラリア東部やアメリカ中西部の穀物生産地帯で頻
発する旱魃等の影響で、飼料価格が不安定であるため、濃厚飼料多給による高品質な牛肉生産や、高泌乳牛に
よる乳の高位安定生産を図る農家は、常にリスクを抱えているといえる。一方、わが国の畜産のなかで、都市
近郊の養豚産業や酪農は、近場の食品製造・加工・販売過程で発生する粕類や規格外品等を飼料として用いる
ことにより発展してきた経緯がある。このような取り組みは畜産農家における飼料費と事業所における廃棄物
処理費の低減に資する他、環境負荷の低減に通じる地域循環型畜産の発展をも促す。今回の発表では、特に黒
毛和種肥育牛に焦点を当て、未利用資源の利活用に関するこれまでの研究成果を概観した上で、発表者が関
わってきた調査や給与試験の結果を紹介し、今後の展開について述べる。
2. 国内で行われてきた肥育牛用飼料としての未利用資源の利活用に関する研究成果
養豚、養鶏、泌乳牛に対する給与試験の成果に比較して、事例は少ない。1970年代以降の都道府県畜産試験
場等における研究成果を網羅した場合、既に市販の濃厚飼料の配合原料として用いられている材料を除外する
と、トウフ粕、生米ヌカ、ビール粕等を既存の濃厚飼料原料と組み合わせたり発酵TMRとして調製して給与し
た試験が多く、ビートパルプ、麦ヌカ、砕米、大豆稈・サヤ、くず大豆、パン屑を用いた試験が散見され
る。乾物としての代替率は既存の濃厚飼料の10-30%で、飼料摂取量、増体、飼料要求率、枝肉成績が既存の
濃厚飼料給与と同等で、飼料費や生産物価格との差益が改善された研究が多い。一方、肉の理化学的性状、脂
肪酸組成、官能評価に踏み込んだ研究はそれほど多くない。
3. 近畿地方における地場産飼料資源の探索
京都府南丹地域(京丹波町、南丹市および亀岡市)は、農業産出額の約45%を畜産が占めるが、その周辺で事
業展開している食品工場と農業団体からは多くの副産物が発生しており、これらの低・未利用資源の飼料化技
術の開発がまたれている。そこで南丹地域にある食品製造事業所と農業団体に調査協力を依頼するととも
に、提供された食品製造副産物、食品原料副産物などの試料サンプルを分析することによって、飼料資源とし
て利用可能な賦存量を算出した。対象とした40件程度の事業所・団体のうち、11件から協力が得られ、食品
製造副産物、食品原料副産物など14点の試料が提供された。提供された試料サンプルと配合飼料中の化学成分
分析値を調べた。現在使用されている配合飼料の一部を代替することを目的として混合飼料を調製する際
に、基本的に高エネルギー、高タンパク質の資材が必要となるため、取り扱える食品製造副産物や食品原料副
産物は限定されることになる。肉牛肥育用配合飼料の一部を代替するために組み合わせた資材はポテト加工残
渣、醤油粕、豆腐粕および麺類規格外品の4つである。ポテト加工残渣と豆腐粕の配合割合を低めに設定
し、麺類規格外品の配合割合を高めに設定することによって比較的低タンパク質、高エネルギー飼料が作製で
きると考えられた。一方、京都府下の醸造所から産出される清酒粕やヌカ類は粗タンパク質や粗脂肪含量が高
いものがあり、事業所の規模と製造過程よっては通年で大量に産出されるため、タンパク質およびエネル
ギー源として既存飼料に代替可能であると考えられた。
4. 肥育牛に対する給与試験の成果
上記の調査の結果、供試した新規飼料資源の一部は、濃厚飼料の構成要素として既存の飼料に置き換えること
のできる飼料、あるいは機能性を有する飼料として既存の飼料に添加可能な材料であることが示された。そこ
でまず、副産物資源の中で特にタンパク質およびエネルギー飼料としての利用が有望なものを取り上げ、以下の資材を用いて肉牛への給与試験を行った。
・麺類規格外品を主体とした発酵TMRを用いた成長試験(肥育後期)
・豆腐粕・醤油粕混合飼料を用いた成長試験(肥育前期)および肥育試験
・液化仕込み清酒粕を用いた肥育試験
【略歴】1990年 京都大学大学院農学研究科博士課程修了、1990年日本学術振興会特別研究員(PD)、1992年広島大学生物生産学部助手、1994年広島大学大学院国際協力研究科助教授、2016年京都大学大学院農学研究科准教授
わが国の畜産は、2014年度概算で濃厚飼料の86%を輸入飼料に依存する他、粗飼料についても少なくない量
を輸入に頼っている。この構造は飼料価格がおしなべて安い場合、あるいは代替飼料が容易に手に入る状況で
は、畜産経営において利潤を生みやすいが、飼料価格が高い場合は経営を極度に圧迫する不安定因子とな
る。特に近年は、根底にある世界的な畜産物の需要増に加えて、石油価格の乱高下、飼料作物資源をめぐるバ
イオエタノール・バイオジーゼル仕向けとの競合、オーストラリア東部やアメリカ中西部の穀物生産地帯で頻
発する旱魃等の影響で、飼料価格が不安定であるため、濃厚飼料多給による高品質な牛肉生産や、高泌乳牛に
よる乳の高位安定生産を図る農家は、常にリスクを抱えているといえる。一方、わが国の畜産のなかで、都市
近郊の養豚産業や酪農は、近場の食品製造・加工・販売過程で発生する粕類や規格外品等を飼料として用いる
ことにより発展してきた経緯がある。このような取り組みは畜産農家における飼料費と事業所における廃棄物
処理費の低減に資する他、環境負荷の低減に通じる地域循環型畜産の発展をも促す。今回の発表では、特に黒
毛和種肥育牛に焦点を当て、未利用資源の利活用に関するこれまでの研究成果を概観した上で、発表者が関
わってきた調査や給与試験の結果を紹介し、今後の展開について述べる。
2. 国内で行われてきた肥育牛用飼料としての未利用資源の利活用に関する研究成果
養豚、養鶏、泌乳牛に対する給与試験の成果に比較して、事例は少ない。1970年代以降の都道府県畜産試験
場等における研究成果を網羅した場合、既に市販の濃厚飼料の配合原料として用いられている材料を除外する
と、トウフ粕、生米ヌカ、ビール粕等を既存の濃厚飼料原料と組み合わせたり発酵TMRとして調製して給与し
た試験が多く、ビートパルプ、麦ヌカ、砕米、大豆稈・サヤ、くず大豆、パン屑を用いた試験が散見され
る。乾物としての代替率は既存の濃厚飼料の10-30%で、飼料摂取量、増体、飼料要求率、枝肉成績が既存の
濃厚飼料給与と同等で、飼料費や生産物価格との差益が改善された研究が多い。一方、肉の理化学的性状、脂
肪酸組成、官能評価に踏み込んだ研究はそれほど多くない。
3. 近畿地方における地場産飼料資源の探索
京都府南丹地域(京丹波町、南丹市および亀岡市)は、農業産出額の約45%を畜産が占めるが、その周辺で事
業展開している食品工場と農業団体からは多くの副産物が発生しており、これらの低・未利用資源の飼料化技
術の開発がまたれている。そこで南丹地域にある食品製造事業所と農業団体に調査協力を依頼するととも
に、提供された食品製造副産物、食品原料副産物などの試料サンプルを分析することによって、飼料資源とし
て利用可能な賦存量を算出した。対象とした40件程度の事業所・団体のうち、11件から協力が得られ、食品
製造副産物、食品原料副産物など14点の試料が提供された。提供された試料サンプルと配合飼料中の化学成分
分析値を調べた。現在使用されている配合飼料の一部を代替することを目的として混合飼料を調製する際
に、基本的に高エネルギー、高タンパク質の資材が必要となるため、取り扱える食品製造副産物や食品原料副
産物は限定されることになる。肉牛肥育用配合飼料の一部を代替するために組み合わせた資材はポテト加工残
渣、醤油粕、豆腐粕および麺類規格外品の4つである。ポテト加工残渣と豆腐粕の配合割合を低めに設定
し、麺類規格外品の配合割合を高めに設定することによって比較的低タンパク質、高エネルギー飼料が作製で
きると考えられた。一方、京都府下の醸造所から産出される清酒粕やヌカ類は粗タンパク質や粗脂肪含量が高
いものがあり、事業所の規模と製造過程よっては通年で大量に産出されるため、タンパク質およびエネル
ギー源として既存飼料に代替可能であると考えられた。
4. 肥育牛に対する給与試験の成果
上記の調査の結果、供試した新規飼料資源の一部は、濃厚飼料の構成要素として既存の飼料に置き換えること
のできる飼料、あるいは機能性を有する飼料として既存の飼料に添加可能な材料であることが示された。そこ
でまず、副産物資源の中で特にタンパク質およびエネルギー飼料としての利用が有望なものを取り上げ、以下の資材を用いて肉牛への給与試験を行った。
・麺類規格外品を主体とした発酵TMRを用いた成長試験(肥育後期)
・豆腐粕・醤油粕混合飼料を用いた成長試験(肥育前期)および肥育試験
・液化仕込み清酒粕を用いた肥育試験
【略歴】1990年 京都大学大学院農学研究科博士課程修了、1990年日本学術振興会特別研究員(PD)、1992年広島大学生物生産学部助手、1994年広島大学大学院国際協力研究科助教授、2016年京都大学大学院農学研究科准教授