The 71th Annual Meeting of JSFST

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Symposia

シンポジウムB

[SB1] シンポジウムB1

Fri. Aug 30, 2024 9:00 AM - 11:45 AM Room S4 (3F N301)

世話人:清水 宗茂(東海大学)

9:40 AM - 10:15 AM

[SB1-02] Exploring the pathogenesis of sarcopenia/frail

*Kunihiro Sakuma1 (1. Institute for Liberal Arts, Tokyo Institute of Technology)

Keywords:sarcopenia, frailty, autophagy, rubicon

    【講演者の紹介】佐久間邦弘 東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 教授 略歴: 1995年 筑波大学大学院 博士課程 体育科学研究科 修了; 1996年 愛知県心身障害者コロニー 発達障害研究所 研究員; 2000年 京都府立医科大学 法医学教室 助手; 2005年 豊橋技術科学大学 総合教育院 准教授; 2016年 現在に至る

    我々の⾝体には600 以上の⾻格筋があり,体重の40〜50%を占める.⾒た⽬には⼤きな変化を⽰さない⾻格筋量だが,細胞レベルにおいて⾻格筋のタンパク質 (ミオシン,アクチンなど)は24 時間常に合成と分解を続けている.その量はタンパク質の合成  (同化)と分解  (異化)のバランスによって制御されており,両者の動的バランスがどちらかに傾けば,筋タンパク質の増加 (筋肥⼤)あるいは減少  (筋萎縮)が⽣じることになる.タンパク質合成を促進する代表的な経路としてPI3-K (phosphatidylinositol 3-kinase)-Akt-mTOR (mammalian target of rapamycin)があり,またタンパク質分解を制御する主要な経路として,ユビキチンープロテアソーム経路 (Ubiquitin-proteasome system: UPS),オートファジー経路,TNF (tumor necrosis factor)-α-NF (nuclear factor)-κB 経路がある.
    加齢にともない骨格筋が萎縮し,それまでの通常生活ができなくなってくることをサルコぺニア(加齢性筋減弱症)という.このとき,より強い力を発揮できる速筋線維が選択的に萎縮し,筋線維数も著しく減少する.サルコペニアにおいて,タンパク質合成を促進する有名な制御系であるPI3-K-Akt-mTOR経路に顕著な変化は認められない.一方,様々な急性の筋萎縮 (筋固定、無重力など)において活性化され,特に筋原線維成分の分解に関わるUPSは,サルコペニアにおいてほぼ変化が認められない.さらにいうと,UPSで重要な働きをし,急性の筋萎縮を促進する筋肉特異的ユビキチンリガーゼのmuscle RING finger-1(MuRF-1)とアトロジン-1を欠如させた場合においても,加齢にともなう筋肉量減少が起こり,筋力増加をともなわない筋肉量の増加などが報告されている.したがって,UPSは加齢筋の筋萎縮の進行に無関係であると考えられる.
    サルコぺニアの根本的な原因はいまだ解明されていないが,オートファジー(自食: タンパク質のリサイクル機構)が破綻しているためである可能性が高い.我々の先行研究において,加齢したマウスの筋では,オートファジーで重要な役割をするp62/SQSTM1が細胞質に異常沈着する様子が観察された [Sakuma K et al.,p62/SQSTM1 but not LC3 is accumulated in sarcopenic muscle of mice. J Cachexia Sarcopenia Muscle 7: 204-212, 2016].サルコペニアにおいて生じるオートファジー機能不全に,Rubiconが関係している可能性がある.Rubicon は,Beclin-1 結合タンパク質として発見され,オートファジーおよび細胞内取り込み (エンドサイトーシス) を抑制する働きを持つ.興味深いことに,Rubicon は加齢期の線虫,ハエ,マウスの組織において発現が増加する(Nakamura S et al. Nat Commun 10: 847, 2019).この時組織内からRubicon を欠損させると,オートファジーが活性化し,運動機能に改善がみられ,神経細胞の生存率も亢進する.すなわち,組織内からRubicon がなくなると,加齢現象が抑制される可能性が高い.一方,肥満細胞においては,組織内のRubiconが減少することで機能不全になることから,臓器ごとにRubiconの働きが異なる可能性もある.骨格筋内におけるRubicon の役割について,不明な点は多い.本シンポジウムでは,サルコぺニアにおけるRubiconの発現変化に着目し,オートファジー機能不全との関係について紹介する.