日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

シンポジウム

シンポジウムB

[SB1] シンポジウムB1

2024年8月30日(金) 09:00 〜 11:45 S4会場 (3F N301)

世話人:清水 宗茂(東海大学)

09:05 〜 09:40

[SB1-01] 超高齢社会におけるサルコペニア・フレイルの重要性とその対策について

*葛谷 雅文1 (1. 名鉄病院)

キーワード:サルコペニア、フレイル、超高齢化社会、健康寿命

    【講演者の紹介】葛谷雅文(くずやまさふみ)略歴:1983年 大阪医科大学卒, 1989年 名古屋大学大学院医学研究科 博士課程(内科系老年医学)満了, 1991年 米国国立老化研究所 研究員, 1996年 名古屋大学医学部附属病院(老年科)助手, 1999年 同講師, 2002年 同助教授, 2007年 名古屋大学大学院医学系研究科 老年科学分野 准教授, 2011年 名古屋大学大学院医学系研究科 地域在宅医療学・老年科学分野 教授, 2014年 名古屋大学未来社会創造機構 教授(兼務), 2022年現在に至る

    かつては介入の余地がない加齢現象として捉えられてきた身体・精神の変化が,人口の高齢化により疾患または疾患に準ずる病態として新たな視点で捉えられてきたものが存在する.その代表的なものがサルコペニアでありフレイルである.この二つの病態は健康寿命に大きな影響を与え、新たな疾病発症,転倒・骨折,認知機能の低下,社会的孤立が誘導され,要介護状態や入院・死亡のリスクを増加させることが報告されている.
    サルコペニアは加齢に伴う骨格筋の萎縮が高齢者の転倒骨折などの健康障害のリスクにつながることより,その重要性が提唱された.一方フレイルは加齢とともに徐々に体の予備力が低下し身体機能障害に陥りやすい状態と捉え,このフレイル状態は種々の適切な介入により健常に戻すことができる可逆的な状態との概念から出てきた.共通の診断項目として筋力と身体機能(歩行速度など)があるため,この二つはオーバーラップすることが想像できる.しかし,サルコペニアは骨格筋の衰えを指し、フレイルは筋肉の衰えだけではなく栄養状態、心理的、身体活動性などに渡る診断項目があり,より広い概念として捉えることができる.また,フレイルに関しては身体的のみならず精神・心理的フレイルや社会的フレイルなどの概念も提案されているが,それぞれ明確な診断基準は確定していない.それぞれ予防が重要なのは言うまでもないが,診断された後も適切な介入により改善する可能性があり,サルコペニアに関しては栄養介入と運動介入の効果が報告されている.また種々の臓器の機能低下に伴う二次性サルコペニアに関しても注目されては来たが,研究の蓄積は十分ではない.一方,フレイルの介入に関しては,サルコペニアに対する二種類の介入に加え,社会参加などの社会活動の重要性が指摘されている.
    本邦においてはハイリスクアプローチが自治体などで実施された経緯があるが,大きな成果を得るに至っていない.一因は一定期間の介入を行うものの,その後の継続性が担保できなかったことが挙げられる.このアプローチは自治体だけでなく,産業界,教育界等が一体となり取り組むことが必要である.ポピュレーションアプローチには,自然にこれらの予防効果が生じるような環境を整備するような対策(ゼロ次予防)を含め,高齢者にとって多方面からのアプローチが望まれる.