日本食品科学工学会第71回大会

講演情報

一般講演

D 食品工学、加工、保蔵、バイオテクノロジー (Food Engineering, Process, Storage, and Biotechnology)

[3Kp] 食品物性

2024年8月31日(土) 14:30 〜 17:00 K会場 (2F N206)

座長:松宮 健太郎(京都大学)、佐藤 之紀(弘前大学)、津村 和伸(摂南大学)

14:30 〜 14:45

[3Kp-01] ルテインとタンパク質の相互作用を利用したパンの物性改良

*山内 朝夫1、千葉 啓太2、渡辺 嘉1、難波 真紀子2 (1. (地独)大阪産業技術研究所、2. 日油(株))

キーワード:ルテイン、疎水性相互作用、パン、物性

[目的] 植物成分のルテインは,脂溶性が高くタンパク質に吸着する性質を持つ.タンパク質水溶液にルテインを添加すると,ルテインはタンパク質分子内の疎水領域に作用し,タンパク質と複合体を形成する.しかし,グルテンなどが持つタンパク質分子間の疎水性相互作用に対して,ルテインがどの程度効果を及ぼすのか明らかでない.本研究では,ルテインの吸着による球状タンパク質の構造変化を調べるとともに,グルテンを使った製パンにおけるルテイン添加の特徴を検証した.
[方法] ルテインは脂肪酸構造を含まないフリー体と含むエステル体,球状タンパク質はオボアルブミンを使用した.まず,疎水性の蛍光分子を用いたタンパク質の疎水度測定でルテインの吸着を確認した.次に,タンパク質の高次構造の変化を円二色性分光法やポリアクリルアミドゲル電気泳動法で調べた.グルテンを用いた実験では,グルテン構造を染色顕微観察するとともに,調製したパン生地の動的粘弾性を測定し改質効果を調べた.さらに,ルテインを配合した焼成パンはテクスチャーアナライザーで圧縮時の応力値を測定した.
[結果] いずれの構造のルテインも程度は異なるものの,タンパク質の疎水部に吸着することがわかった.また,ルテインを添加しても球状タンパク質の二次構造やタンパク質分子間の複合体様式に変化はなかった.一方,グルテンにルテインを添加すると,グルテン構造が変化し粘弾性がいずれも向上することがわかった.これは製パン工場の大規模生産において,生地の機械によるダメージを抑えるなど作業の効率化に繋がる.焼成パンについてもルテインの添加により応力値が低下し柔らかくなった.以上の結果は,ルテインが疎水度の高いグルテンタンパク質素材に単純な疎水性相互作用で吸着し,これによりパン生地の物性が向上するだけでなく,食感を改良できるまで効果を及ぼすことを示している.